霜雪に往きてかへらぬ

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 我が家は七人兄弟にて、私は四男でございます。長男の太郎、次男の次郎、長女のお梅、三男の三郎、四男の私、五男の五郎、そして次女のお雪がおりました。  長男の太郎は跡取りゆえ、口減らしの候補には挙がらず、私どもの醜き争いを内心見下したる面持ちで眺めておりました。それが私には、どうしても気にくわなかったのであります。  元より、太郎に対しては妬みもあったかと存じます。彼はいわゆる優等生にて、それだけでなく女子(おなご)に人気がございました。これならば特に問題もないように思われますが、彼は非常に意地悪で、性格も宜しからぬ者でございました。  彼は度々、私に意地悪をしてくるのでございます。持ち物を隠したり、時折親の目の届かぬ所で小突いて参ります。田圃に突き落とされたこともございました。  その折には、私がふざけて勝手に田圃に落ちたことにされ、田中のお爺様に私一人が叱られました。その日の夕餉(ゆうげ)は抜きと相成り、暗き蔵の中に閉じ込められ、泣きながら空腹を抱えて眠れぬ夜を過ごしたのでございます。  ですから、日頃の報いとして少しばかりの嫌がらせをしてやろうと思いたった次第でございます。
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