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お雪を山に連れて行く際、彼女に目隠しをいたしました。道順を覚えて、家に戻って来ぬようにするためでございます。私は彼女の手を引き、山道を何時間も歩き続けました。
道中、何度も霰の粒が私たちの薄衣に突き刺さり、肩や腕が悲鳴を上げるように痛みました。
普段ならば真っ先に「痛い、痛い」と泣き出すであろうお雪が、何も言わずにただしくしくと涙をこぼしておりましたのは、せめて最期くらいは兄に迷惑をかけぬようにとする、彼女なりの優しさであったのかもしれません。
山の開けた場所に到着すると、私はお雪の目隠しを取りました。そして、穴を掘り始めました。彼女の身体を埋めるためのものでございます。
かつて、口減らしされた子供が歩いて村に戻ってきたことがあったゆえであります。さすがに、縄で身体を縛られた上に雪の中に肩まで埋められた状態では、生きて帰ることもあるまいと考えました。
私はお雪の身体にスコープで雪をかけながら、何度も何度も謝りました。しかしそれは、申し訳なさよりも、どうか祟らないでくれという、我が身可愛さからの願いに過ぎませんでした。
私の謝罪に対し、お雪はこう申しました。
「おにい、もうよかっちゃ。だって、うち、絶対家に帰るけん」
そう言って微笑みました。
しかし、今となっては、それこそが呪いの言霊であったのでございます。
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