霜雪に往きてかへらぬ

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 墓場まで持っていくつもりでございましたが、どうにも堪えきれず、今こうして筆を執っております。  あゝ、まず初めに私のことをお話ししておかねばなりませぬ。私の名は山中四郎と申します。私は県北の、山が険しき地にて生まれました。雪の多く降る、誠に厳しき地方にございます。  ですから、明治の御代になりましても、なお『口減らし』という風習が残っており、ついに我が家も食い詰まり、兄弟の中から誰かひとりを犠牲にせねばならぬ事態となりました。  そうなれば、我ら兄弟も皆、生き延びんがために必死にございます。それぞれが自ら命を守らんと、一心不乱に他の兄弟の足を引き摺るのでございます。  
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