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「菜穂──」 「そもそもさぁ、私『結婚したい、同棲したい』なんて迫った覚えないよ。……それともあなたの中ではそういう話になってるの?」  如何にも投げやりな口調。  冗談で誤魔化したりしたら、きっとこの場ですべてが終わる。それくらいの極限状態だというのは晋也にも伝わった。 「いや、違う! 今のは俺の失言だ。別に普段からそんな風に考えてるわけじゃなくて、混乱し過ぎちゃってつい! ……本当にゴメンなさい」  なりふり構わずとにかく謝る。  二人の間では、少し前から結婚話が出ていた。  自分の方が乗り気だったのは間違いない、と晋也自身思っている。  菜穂も晋也との結婚自体は考えていると話していたし、別に嫌がっていたわけではなかった。  けれど、少なくとも大喜びで飛びつくような素振りは一切なかったのだ。  本人の言う通り、交際を始めて二年になるが菜穂は結婚をせっつくような真似は一度たりともしたことはない。  むしろ、晋也がどうこうではなくて結婚して生活の根幹が変わるのが不安という感じだった。仕事はずっと続けると決めているのも聞いている。  だったら同棲しないか? と持ち掛けたのも晋也の方。……そうだ、菜穂ではなく。 「ホント悪かった!」  お前が望むならここで土下座も厭わない! という勢いで頭を下げた晋也に、菜穂は仕方なさそうに溜息を吐いた。 「……ん、わかった。とりあえずこの仔連れて行こう。ウチの駅前にペット用品扱ってるショッピングセンターあるから、そこ寄って必要なもの買ってこ」 「そ、そうだな。いきなりゴメンな」  申し訳ない気持ちいっぱいに、晋也はただただ頭を下げるしかない。
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