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 「東堂瑞貴です。よろしくお願いします」  背は確かに高いが……なんというか……大きい。  若手達が後ろの方で早速小声でいじっている。 「東堂……トド……」 「ぶっ……」  トドは失礼だろ。丸みを帯びているだけだ。  ところで一体だれが、東堂瑞貴はイケメンハイスペックと言っていた?  秘書課に現れた期待の新人東堂瑞貴は、身長百八十六センチのふくよかな巨体に、ビート〇ズをリスペクトしているかのような綺麗なマッシュルームカット、ナチュラル太眉、黒ぶち眼鏡。眼鏡の奥に見える目は切れ長を通り越えた、切れ込みのようなつり上がり一本線。  イメージがだいぶ違ったが、それより何だか……ふてぶてしい。  朝礼が終わり、皆席に着き始め業務を始める。  中川課長は瑞貴君を私の前に連れて来て紹介をした。 「瑞貴君、君の教育担当で社長第二秘書の藤木綾子君だ」 「藤木綾子です。何でも聞いてくださいね」  東堂瑞貴は私を見るなり、なぜか怪訝な顔を見せた。 「……お綺麗ですね」 「え? あ、ありがとう」  言ってるセリフと表情が噛み合っていない。というか、何だその抑揚のない誉め言葉は? というか、というか、初対面第一声にそれはセクハラでは?     この子を見てると私まで怪訝な顔になって来る。 「あの……俺、美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」 「は?」  言ってるセリフと表情がばっちり噛み合った。つまり私を嫌がってるのか?  極めつけに、なんと瑞貴君は小さくぼやいていた。 「秘書課配属の時点で、嫌な予感はしたんだよなぁ……」 「はあ?」  ばっちり聞こえてますけど?  私は堪忍袋の緒が切れて、瑞貴君改め瑞貴の胸元を強めに小突く。 「まず、その口の利き方と、態度から教育します」  背の高い瑞貴は、相変わらず不愛想な顔で私を見おろしている。 「はい、不束者ですが、よろしくお願いします」 
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