2ー3

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 電車が走り出して、しばらくすれば夢の国が見え始める。  僅かに見えるトドの横顔が、キラキラと輝き出したのがわかった。まるで、楽しみにしている遊園地に今から向かう子供のようだ。  『ご乗車ありがとうございました~——』  「え」  まさかの夢の国の入口で、浮足立ったトドが降りて行く。  私は思わず立ち上がって同じ駅で飛び降り、気づかれないようトドの後をつけてしまった。  まさかあいつは、あんな風貌で、あんな性格で、夢の国へ一緒に向かうプリンセスがいたのか!?  いや、まさか……あの性格の悪さでプリンセスがいるはずがない。むしろ財産狙いの悪い女や、プロ女性にお客さんとして騙されているのではないか?  大丈夫なのか、トド!? 「くっ……私のトレーニーを危険にさらすわけにはいかないわ……」  トドは夢の国へと続く橋を渡り始める。  私も少し距離をあけて後を追う。    どこだ、どこで待ち合わせてるんだ? このまま突き進んで夢の国に入られたらお終いだ。なぜなら私はその先には進めない……。  トドは橋を渡り切ったところで、急に立ち止まった。  そしてくるりと振り返ると、真っ直ぐに私を見た。後をつけてたのは全然バレていた。 「綾さん、僕になにか?」 「ぐっ……偶然ね! 私も帰り道がこっちなのよ」 「こっち?」  トドは夢の国の入口を指差しながら首を傾げた。 「そ……そうよ」 「ふーん」  トドは、ただでさえ肉の切れ込みのような細い目を、さらに細めて私を見つめる。その視線に私はただ目を泳がせるしかなかった。  トドはまたくるりと背を向け、スマホをいじりながら歩き出す。  一緒に行く相手と連絡を取り合っているのか?    もうこの隙に退散しよう。  そう思ってゆっくりと後ずさり始めた瞬間、またもトドが振り返った。  そしてなぜか私に向かってスマホの画面を見せてくる。 「良かったですね。チケット買えましたよ」 「え?」 「ほら、決済ボタン押しちゃったんで、行きますよ」 「ええええー!?」  私は人生初の夢の国へ、トドと一緒に入国してしまった……。
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