2ー4

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「何乗ります? それともパレード待ちします?」 「え? ええ、そうね……」  初めて足を踏み入れた憧れの場所に、私はただ茫然としており、正直右も左も何があるのかもわからない。 「まさかとは思いますが……初めて?」 「ええ、初めて」 「あれ? 綾さんって出身どちらでしたっけ?」 「埼玉」 「それで、初めて???」  確かに夢の国近郊で育った子供の多くは一度や二度くらいは足を踏み入れたことがあるだろう。だけど私は本当になかったのだ。 「家が貧乏だったし、シングルファザーの父は多忙で家を空ける事も多かったから、家族で旅行とかもなかったのよ」 「それでも、高校や大学で友達や彼氏と行かなかったんですか?」 「大学まではバイトと勉強の両立で忙しかったし、面倒見ていた弟が独り立ちしたのも数年前だし、先月まで付き合ってた彼氏とは、彼の家かファミレス行くだけで終わったわ。というか、そもそも付き合ってると思ってたのは私だけだったし」 「あー……なるほど」  トドの抑揚のない声が胸に突き刺さる。  私は社会人になってからはキラキラした人生を歩んでいると自負していたが、急に自分の人生が虚しくなった。 「じゃあ、パレードは今度観る事にして、今日はアトラクションをせめましょう」 「え?」  トドはスマホをスクロールして各アトラクションの待ち時間を調べながら歩き出した。私はただ彼について行くしかなかった。
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