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「おはよう、諸君」 「「「東堂社長、おはようございますっ!!」」」  私は、郵便物と今朝嵯峨に渡された原稿を渡しに、社長の前まで進む。 「ああ、藤木君、春から息子がお世話になるよ」 「はい、早く会社に馴染めるよう、秘書課でサポートさせていただきます」 「いや、教育担当としてだよ。まだ聞いてないのか?」 「え? 教育担当?」  戸惑う私のそばに中川課長が駆け寄ってきた。 「今、瑞貴君の入社の話を伝えていたところです」 「ああ、そうか。それは混乱させてすまなかった。瑞貴の教育担当は藤木君に決まったんだよ。勿論、息子には中川にくっついて現場で学んで貰う時もあるが、中川は私の案件で手一杯だからな。申し訳ないが教育は君に頼む」 「承知致しました」  私は深々と社長にお辞儀をすると、社長と中川課長はすぐに社長室へ入って行った。  若手秘書の咲良ちゃんと萌ちゃんが、お局様に聞こえないよう、小さな声で私に向かって声を掛けてくる。 「うまくいけば玉の輿ですよ、綾子さん! 脱・シングル」 「そしたら、友人とかのおこぼれよろしくですっ!」  イケメンハイスペ御曹司の教育担当……なかなか魅力的な展開だと思うけど、でも皆が知らないだけで、私には既にイケメン彼氏がいる。年下男性は元々圏外だし、いくら上昇婚狙ってたからって、条件良い方に乗り換えるとか、二股掛けるほど軽薄ではないから、周りが期待するようなことは絶対起こらないと思う。そもそも、社長のご子息なんて狙っちゃ駄目でしょ。  咲良ちゃんが、萌ちゃんを小突き出した。 「何アンタよろしくですとか言ってんのよ。相手いんでしょ?」 「だめだめ、内緒ですってばっ」  急に第三秘書の萌ちゃんが顔を赤くして慌て始めた。  ほほん、これは男がいるんだな。 「え? 萌ちゃん彼氏できたの?」  惚気話を聞いてあげた方が良いのかと思い、それとなく聞いてみる。    いいわよ、いいわよ、今の私ならいくらでも聞いてあげるから、言ってごらんなさい。 「あ、はあ……彼氏ではなく……実はまだセフレ止まりで」 「はっ!?」  思わず私は大きな声を上げてしまい、お局様に睨まれてしまった。気まずい笑顔をお局様に向けながら、三人で給湯室にお茶を取りに行くフリをしてフロアを出た。
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