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「セフレって……若いって、色々余裕があるのね……」 「え? 余裕? ないない、ないですよ。本命彼氏欲しいですもんっ。それまでの割り切ったお付き合いです。そう言う綾子さんだってまだ若いんだから、一晩だけの相手だったとか、ありますよね?」 「え? 私? そんな一晩だけとかないわよ」   何だか興味津々な顔を向けて来る萌ちゃんに、私は顔を赤くしてそれ以上何も答えず、さっさとお茶を淹れて自分の席に戻ろうとした。    萌ちゃんと咲良ちゃんはまだ小声で話しており、時折咲良ちゃんの「言った方がいいよ」と言う声も聞こえて来ていた後に、咲良ちゃんがにんまり顔をして私に聞いてくる。 「綾子さん、萌の相手、誰だと思います?」  萌ちゃんが慌てて咲良ちゃんを止めようとする。   「咲良さん! だから秘密にしないといけないんですってば!」 「だって、間違って綾子さんがクズ男に引っかかっちゃったらどうすんのよ!」 「先輩が引っかかるわけないじゃないですかぁ〜」  二人の様子にさすがに私も気づいた。 「ん? 萌ちゃんのセフレって、もしかしてこの会社の人なの?」  咲良ちゃんが嬉しそうに言った。 「実は広報課の嵯峨係長なんです!」  え、っと声を出しかけた瞬間、お局様の呼ぶ声が響いた。 「お茶を淹れるのにどれだけ時間かかってるの! さっさと業務を始めなさいっ!!」  私達はコップを持って急いで席に戻り、無言でパソコンを打ち始める。  ただ私はその後、頭が真っ白で、今自分は何をするべきかが分からなくなってしまった。  咲良ちゃんはお局様が席を立ったのを確認し、私に向かって小声で言ってきた。 「綾子さん、嵯峨係長にはじゅーぶん気を付けてください」 「あはは、はぁ、はい……」  私の心にとても重い鉛が落とされ、パソコン画面や資料を何度読んでもまったく頭に入ってこなくなった。
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