マブダチ

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「瑞貴は私の初恋なんだけど、園児の恋とか可愛いでしょ? 当時母親同士が私の気持ちに盛り上がって、恋人同士ね~とか言って囃し立てて、瑞貴は巻き込まれる形で私の彼氏って呼ばれるようになったの。そのままエスカレーターで小学校に上がったから、良くわからないまま、その名称をお互い使い続けてて、いつの間にか自然消滅してた。っていうか、始まってもいなかったかも。あははは」  私は箸からポロリとおかずを落としてしまった。  さっきまでケラケラ笑っていたエリカは、笑い終えたのか、急に大人びた優しい笑顔を見せ始め、どこか遠いところを見つめていた。 「でもね、瑞貴は優しいから、私の初恋の思い出を壊さないよう、彼氏なんかじゃないって言わないでくれてるの。だから、私もありがたく初カレって言ってしまってて、ごめんなさい」 「え? いえ、全然。そんな、昔の付き合いにどうこういう資格無いですし」 「でも、不安だったでしょ?」 「え……はあ……まあ」 「でも、瑞貴の初体験は綾ちゃんだから!」 「は!?」  私はエリカの発言を聞いて顔を真っ赤にしてしまった。 「それは……どどどどど、どういう話から、そんな話に???」 「え? 瑞貴からずっと恋の相談受けてたから。あ、一応伝えるけど、私も瑞貴もお互いを異性として意識した事は一度もないから。初恋ってのも幼稚園児の可愛い思い出話なだけで、別に本当に恋してたわけじゃないし」 「あー……ははは、なるほど。え? 瑞貴が相談?」 「そうよ。だぁかぁらぁ、私達、マブダチって言ったじゃない。元カノよりそっちが本当。瑞貴が綾ちゃんに恋した時からずっと相談を受けていたよ! そうねえ、初めの頃の相談は、年上の女性を喜ばせるにはどうしたらいいかって聞くから、テクニックを磨けって言って、男物のAVなんか参考にしちゃダメよって言ってあげて、おすすめのTL漫画や、女性用AVや、恋愛特集してる女性向け雑誌なんかを沢山渡しておいたの」  エリカはそう言って、てへぺろをしてみせた。 「てぃっ、TL漫画??? 女性用AV???」 「瑞貴ってめっちゃ頭いいし、クソ真面目でしょ? まるで学位でも取るのかなって位の意気込みで恋愛の勉強してたんだよ! 私、いかがわしい物をあんな真剣に見てノート取って研究してる人、初めて見た」  エリカはそう言うと笑いを堪えきれず、机を叩いて大笑いしている。 「しかもね、しかもね、不明点あればしょっちゅう詳細を聞いてくるの。角度は何度が適切だろうとか。あんたそれ私に対するセクハラだからって言ってやった! あー、思い出すだけで死ぬ」  エリカはひーひー言いながら泣き笑いしていた。まさか美女モデルエリカがこんな笑い方をする人だとは想像もつかなかった。  そして、エリカの言っている瑞貴を想像すると、私も思わず吹き出して笑ってしまった。
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