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 会社までの道のりの樹木は、すっかり桃色に色づき、街には真新しいスーツに身を包む新社会人を沢山目にする。  春爛漫といった感じであった。  春の陽気か、新しい季節の出会いへの期待か、浮足立って出社をすれば、会社内は異動の人達が荷物を持って慌ただしく行き交っており、秘書課のフロアへ上がれば、萌ちゃんが最初に出社していた。 「おはようございます、綾子さん。今まで大変お世話になりました」 「おはよう、萌ちゃん。今日から人事課だね。たまに秘書課に遊びに来てね」 「はい! あ、先ほど広報課の嵯峨さんから電話があって、本日付の各社朝刊を社長室に置いておいて欲しいそうです。うちの広告が載ってるみたいですよ」 「あ、本当、じゃあカバン置いてちょっと総務部に取りに行ってくる。また今度ゆっくり話そうね」  今日はどこも異動や新入社員受け入れで慌ただしい。朝礼の前になんとか総務から新聞を受け取らないと、社長の出社に間に合わせられないかもしれない。  というか、嵯峨が新聞を持って来なさいよ。    いや、やっぱり来なくていい。  嵯峨も私と顔が合わせづらかったのかな……。  私は急いでカバンを机に置いて、総務部のあるフロアへ向かった。  無事に新聞を手に入れ、秘書課に戻ると萌ちゃんはすでにおらず、ちゃんと挨拶も出来ず申し訳なかった。  新聞を社長室の机に並べていると、フロアの方が賑やかになり始め、皆集まり始めていた。朝礼が始まるのだ。  私も社長室から出て、輪に加わると朝礼が始まった。  「紹介する、東堂瑞貴君だ。社長と名字が同じなため、課内で呼ぶ時は名字ではなく名前で呼んであげて欲しい」  私は彼の姿を見て、瞬きを何度もしてしまった。
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