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故郷の駅へ近づくと、田園風景が広がっている。
ローカル線の、ガタンゴトンというリズムが身体を揺らし、ボックス席に暖かい陽射しが差し込むと、眩しさに目を細めて立ち上がる。
日除けを半分下ろして顔に直接当たらないようにした。
新幹線の高架下に、見慣れた店を見つけると、
「まだあったのか」
と懐かしさに心が熱くなる。
久しぶりに帰郷すると、十倉新田駅は小さくなっていた。
東京の大きな駅を見てきたせいで、ひなびた駅に感じたのだろう。
駅前の喧騒は、東京のそれとは比べ物にならないほど閑散としていて、歩道は広いばかりで薄汚れて、商店街も活気がない。
道行く人々には、土の田舎臭い雰囲気があった。
誰もが笑顔を浮かべて、今日を精一杯生きている、という点では都会よりずっと居心地がいい。
夢はなくても、温かみがあった。
実家まで田園風景の中を路線バスに揺られていく。
田舎にしては本数が多いのは、複数の鉄道会社が乗り入れる駅を行き来するからだろう。
この街が、明治時代には県庁所在地だったなどとは思えない。
空が鮮やかに青く高くて、飲食チェーンやコンビニも、どこか別物に見えるのは、駐車場がやたらに広いせいだろうか。
昔からある定食屋とか、ラーメン屋の類はなくなり、東京にもあった看板が目についた。
市街地を出ると、真っ直ぐに整備された道路の脇に広い歩道がある。
大きな街路樹と、小振りな植木がリズミカルに植えられ、田んぼの青々とした色彩で埋め尽くされた。
遠くに大きな木の影と集落が転々と見え、さらに先には青い山々が鮮やかに視界に飛び込んでくる。
バスの乗客は誰もが押し黙って、外の風景を見たり、手元のスマホを見たりしている。
運賃表には、赤いデジタル数字で料金の一覧が表示され、その上に次の停留所が白くくっきりと見える。
小さいころは、運転手さんの脇にあるボタンやレバーを熱心に観察して、ドアの開閉や車内アナウンスのやり方を覚えてしまった。
乗り方も、後乗り前降りで、料金後払いが当たり前だと思っていた。
だが、これは田舎のスタイルであると東京に出てから知ったのだった。
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