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埃がうっすらとリビングをコーティングした光景に、月明りが青白い光を落とす頃、響は美しさに息を飲んだ。
しばらく立ち尽くしていたが、荷物を持つ手が痺れてきて我に返る。
とにかく、今夜寝る場所を確保しなくてはならない。
階段下の倉庫に、掃除用具はあった。
さすがに自分が知っている物はほとんどなかったが、箒だけは昔のままだった。
その箒を手に取ると、床を掃き、はたきで鴨居や家具の上を撫でると部屋全体に霞がかかったようになった。
咳込んでマスクを付けると、また手を動かし始める。
窓を開け、網戸を閉めるとウシガエルの大合唱が腹の底から揺さぶるような重低音を奏でる。
外に目をやると、裏の家々は眠ったように静かで、街灯のLEDの強烈な光がアスファルトをぼんやりと照らしだしていた。
一階の埃をあらかたゴミ袋に収め、テラスに置くと、今度は水回りである。
キッチンには黒カビが目立つ。
洗剤が見当たらないので、雑巾を湿らせて擦ると、思いのほかきれいになった。
洗濯機が使えるのか、不安もあったが着ている物をとりあえず放り込んだ。
こちらは洗剤と柔軟剤があった。
一度リフォームした風呂は、割ときれいだったため、軽く洗って埃を流し、湯を張った。
歳をとっても困らないように、湯船を浅くして、手すりのある風呂に乾燥機も付けてある。
東京の暮らしを思えば、こちらの方がずっと恵まれていた。
トイレは自動で蓋が開閉し、ウォシュレットもついている。
風呂の支度ができるまでに時間があるので、途中のコンビニで買ったおにぎりとサンドイッチを口に入れた。
床に座っていると、冷気が背中を少し寒くした。
「こんなに広かったかな ───」
子どもの頃は、おもちゃでいっぱいになり、高校時代には飯を食べるだけの場所だったリビングが、テーブルとイスだけのガランとした空間に変わっていた。
腹を満たすと、疲れも出てきてゴロリと横になる。
風呂のモニタが、キッチンの壁に取り付けてあり、温度と時間を表示していた。
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