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普段のあたしなら、きっと突き放してたな。
それをきっかけに、まともに将来のことも考えられないようなダメ男とは別れたかもしれない。
でもその時は、振り返ればまさしく『魔が差した』としか言いようのない状況だったんだ。
「家事やってくれる? もう疲れて帰って来て、このキタナイ部屋でコンビニ弁当掻っ込むのうんざりなのよ。とりあえず毎日ご飯作って、まあ気が向いた時に掃除もしてくれるんならここに置いてやってもいいよ。あ、部屋代も生活費も全部無料で」
ベッドの端に腰掛けたあたしの台詞に、目の前の床に正座してた宗太は、俯いていた顔を上げた。
ちなみに、あたしが床に座れって強要したわけじゃないから。
あたしもそこまで意地悪くない、ってか正直上から見下ろして話すのって全然気分良くないんだよね。自分がすげーやなヤツになった気がしてさぁ。
一応、ベッドの横ポンポン叩いて「ここ座れ」って合図はしたけど宗太が遠慮しただけ。
「アヤカ、ありがとう。俺、何でもする! ずっと自炊してたから料理得意だし!」
目をキラキラさせた宗太の言葉に、一瞬早まったかなと思わなくもなかったんだけど。
一応『コイビト』だし、何よりも当時のあたしは新人で慣れない仕事にいっぱいいっぱいだった。
激務ってほどじゃないけど、自分の要領が悪いせいもあって到底九時五時ってわけにはいかなかったしさ。
あたしは心底、あの殺伐とした日々から解放されたかった。そういう意味では、お互いwin-winだったのかも。
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