1、恋はあっけなく妹に奪われる

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「おめでとう」    もう聞きたくない。そう言いたい気持ちをぐっとこらえ、無理矢理笑顔を作る。  そうしたら、彩羽の顔がぱぁっと明るくなった。   「わ〜ん、よかったぁ。もしかしたら、和葉も旭陽を好きかもってちょっとだけ心配してたの」    彩羽が甘えた声を出し、ぴったりと腕をからませてきた。そう思うなら、わざわざ旭陽と付き合わなければいいのに。彩羽なら、他にいくらでも男の子はいるでしょ。  最低だよね、私。本当はこんなこと思いたくなんかないのに。たった一人の双子の妹の幸せも喜んであげられないなんて。心の狭い自分が恥ずかしい。  彩羽は、何も悪くないのは分かってるんだ。  だけど、結局、旭陽も彩羽なんだね。  旭陽こそは、彩羽じゃなくて、私を見てくれるはずって思ったのに。   「言ったでしょ? 旭陽とは友達だって。本当にそういうのじゃないんだから」  喉まで出かかった不満を押しとどめ、無理矢理笑顔を作る。 「前に聞いた時、和葉そう言ってたよね」  彩羽が丸い瞳を瞬かせる。『そうだよ』と、もう一度念を押しておく。   「彩羽は、旭陽を好きだったの?」 「ん?」 「ほら、旭陽は彩羽の今までの彼氏とは違うタイプだから。どこを好きになったのかなって」  旭陽がというよりも、彩羽が付き合う人は毎回タイプがバラバラ。彩羽の好みがよく分からない。  たぶん選びたい放題のくせに、彩羽はわりと来るもの拒まずだ。『彼氏と別れちゃった』って毎回泣いてるのに、気がついたら次の彼氏が出来てる。   「え〜、だって、旭陽って良くない?」  彩羽は口に手を当てて、フフっと笑う。   「それに、旭陽が好きって言ってくれたから。付き合っても良いかなって」 「……そうなんだ」  やっぱり旭陽から告白したんだ。なんだか虚しくなってきて、自然と声が低くなってしまう。  私の方が彩羽よりも前から旭陽を知ってるのに。私の方が旭陽とたくさん時間を過ごして、私の方が旭陽を好きなのに。それでも、旭陽も私じゃなくて彩羽なんだね。   「今度こそ長続きするといいなぁ」 「きっと上手くいくよ。また色々話を聞かせてね」    心にもないことを言って、『おやすみ』を言い合う。  にこにこで部屋から出て行った彩羽の背中を見送ってから、私はこっそりため息をつく。    水曜と金曜の毎週二回、旭陽と文芸サークルで会えるのを楽しみにしてた。だけど、なんだか憂鬱になっちゃったな。
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