1、恋はあっけなく妹に奪われる

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 ◇  二日後の水曜日の授業後。あまり気乗りしないながらもサークル棟に向かうと、部室の中にはすでに旭陽と彩羽がいた。隣同士の椅子に座り、楽しそうに話している。  とても声をかける気にはなれず、旭陽と彩羽からは離れた位置の椅子に座った。カバンから出した本を読みながらも、こっそり二人の様子を観察する。  百八十センチ近くあり、顔立ちも整った旭陽は、やっぱりどこにいても目立つ。無難な感じのさわやかな栗色ショートヘア、服装もそんなに派手じゃない。だけど、クセがなく、誰が見てもかっこいい旭陽は、シンプルなファッションが一番似合っている気がする。    正統派イケメンの旭陽の隣に、可愛くて愛嬌のある彩羽。悔しいけど、こうして見るとお似合いだった。  こころなしか、私といる時よりも旭陽の顔も嬉しそうに見える。……彼女といるんだから、当たり前か。    彩羽と好きな人が付き合うのは慣れてるはずなのに、チクチクと胸が痛む。  旭陽は、今までの人とは違ったからかな。趣味も合うし、深い話も出来て、彩羽がサークルに入ってきてからも旭陽は分け隔てなく接してくれた。だから余計に、旭陽が彩羽を好きだったなんて思いもしなかったんだけど……。  旭陽が彩羽を好きになるのは仕方ない。だって、彩羽は可愛いし、今までだって私の好きな人はいつも彩羽を好きになったから。  でも、悔しいよ。どうして私じゃだめだったの?   チラチラ二人を見ていたら、彩羽と目が合ってしまった。笑顔で手を振られたけど、気がついていないフリをして、茶色いブックカバーをつけた本に視線を戻す。    先週発売したばかりの大好きな先生の新刊で、一日で読破したくらいにハマった本。もう一回読み直そうと思って持ってきたけど、さっきから一文字も頭に入ってこない。  集中出来そうになかったけど、彩羽に話しかけられないように、本の世界に没頭しているフリをした。  部活じゃなくてサークルだから、うちは基本は何をしていても自由。  小説を書いている人が多いけど、本を読んでいてもいいし、他の人と本の話をしてもいい。もっと言ったら、大学の課題をやっている人もいるし、文芸に全く関係のないおしゃべりで盛り上がっている人たちもいる。何をしにきているのかよく分からない人もそこそこいるものの、今みたいに話しかけられたくない時にあまり干渉されないのはありがたいかもしれない。    しばらくそうしていたら、近くの席に座っていた部長たちが小声で話しているのが聞こえた。 「今日は新しくサークルに入りたい二年生が来るって言ってたけど、まだきてないね」 「そのうち来るんじゃない?」 「でも、もうそろそろ解散の時間だよ」  一年生じゃなくて、二年生?  一年経ってから入ってくるなんて、少し変わってる。なんて思っていたら、部室のドアが勢い良く開いた。
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