1、恋はあっけなく妹に奪われる

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「今日は彩羽と約束してたんだ」  そう言って、旭陽がはにかんだ笑顔を浮かべた。    今までにない旭陽の表情を見て、私は言葉を失ってしまう。そっか、そうだった。彩羽と付き合い始めたんだった。もう旭陽と二人で勉強したり、ファミレスで遅くまで本の話で盛り上がったり出来ないんだ。   「和葉も一緒に行く?」  気を遣ってくれたのか、旭陽が何も言えないでいる私に声をかけてくれた。 「さすがに付き合いたての二人の邪魔するわけには行かないよ」    重たい口の端を上げて、小さく首を横に振る。  三人で食事したことはあるけど、さすがにもう無理だよ。好きな人と妹とのデートについていくなんて、自殺行為。ただ惨めになるためだけに行くようなものだから。 「彩羽から聞いた?」  小さく頷いて、笑顔に似た表情を作る。   「旭陽が彩羽を好きなこと、知らなかったよ。相談してくれたら良かったのに」 「ごめん。和葉に話すの、照れ臭くて」  一年前から一緒にいたのに、旭陽から恋愛系の話は一度も聞いたことがない。もしかしたら、彩羽とはそういう話をしてたのかな。    こんなに話が合う女子は和葉が初めてだって、旭陽は言ってくれたよね。それを聞いて、脈ありかもって勝手に喜んでたけど。私は最初から恋愛対象外だったってことなのかな。   「なになに? 何の話?」  いつのまにかそばにきていた彩羽が話に割り込んできた。するりと私に腕を絡ませ、顔を近づける。  彩羽の後ろには、旭陽の弟。ニコニコしながら、私たちを見ている。 「和葉も食事に誘ったんだけど、行かないって」 「だって、邪魔になるでしょ」 「え〜、邪魔なんかじゃないのに。ねぇ?」    同意を求めるように、彩羽は旭陽と視線を合わせる。すると、旭陽もすぐに頷いた。 「今日はやめておく」  苦笑いを浮かべたまま、はっきりと断る。  彩羽からは『え〜』と納得いかなそうに言われたけど、もう一度断ったら、しぶしぶ引いてくれた。   「また今度絶対行こうね」  念を押して、彩羽は旭陽と一緒に部室から出て行った。    いいな、彩羽は。旭陽の彼女になれて。  彩羽のことだからすぐに別れるかもしれないけど、二人が別れるまではこの光景を見ないといけないんだね。  数日前から何回ついているか分からないため息をまたつきたくなってきた。 「部室閉めたいから、蓮見さんたちもそろそろいいかな」  遠慮がちに部長に声をかけられて、辺りを見回す。  部長と私、それから旭陽の弟以外は、誰もいなくなっていた。 「ごめんなさい、今出ます」  手早く本をカバンの中に入れて、早足で部室を出る。
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