1、恋はあっけなく妹に奪われる

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「待って。和葉ちゃんだよね」  サークル棟の階段を降りようとしたところで、誰かから声をかけられた。  振り向くと、旭陽の弟が立っている。  優日、だったかな。 「そうだけど。どうかした?」 「旭陽たちとごはん行かないなら、オレと行かない?」 「行かない」  軽い感じで誘ってきたので、きっぱりと断る。    だけど、別にショックを受ける様子もなく、彼は平然としていた。よく分からない人。  この人、文学に興味あるのかな。彩羽も大概だけど、どう見ても文芸サークル入りたいってタイプには見えない。 「あなた、小説に興味あるの?」  二年生になってからサークルに入ってきた理由が気になって、不躾ながら聞いてみる。けれど、彼は笑うだけで、何も答えなかった。やっぱり興味ないんじゃない。 「和葉ちゃんさぁ、旭陽のこと好きだよね」  少し呆れていたら、微笑みを携えた彼がいきなり切り出した。 「どうしてそう思ったの?」  内心動揺しつつ、必死で平静さを保つ。  初対面の人にも分かるほど、態度に出していたつもりもない。でも、もしかしてバレバレだった? 「見てたら分かるよ。さっきの和葉ちゃん、彩羽ちゃんがうらやましくてたまらないって目してた」 「もしもそうだったとしても、あなたには関係ない」  図星をつかれて、つい言葉がキツくなってしまう。 「まあ、そうなんだけど。もしかしたら、関係なくもないかも?」 「はぁ?」  要領を得ないふわふわとした優日の話し方に、だんだんイライラしてきた。一体何が言いたいの?   「オレと手を組まない?」 「手を組むって?」 「旭陽と彩羽ちゃんを別れさせる」  突然とんでもないことを言われ、あぜんとしてしまった。 「あなたはどうしてそんなことがしたいの?」 「彩羽ちゃんが好きなんだよね」  特にためらう素振りもなく、優日はさらりと言った。  ということは、彩羽目当てで文芸サークルに入ってきたのかな。 「オレは彩羽ちゃんと付き合える。和葉ちゃんは、旭陽と付き合える。みんなハッピーじゃない?」  優日はニッと笑って、親指を立てる。  それって、私と優日にとってはメリットがあっても、旭陽と彩羽にとっては災難なだけじゃない?    旭陽と彩羽が一緒にいるのを見るのは、正直辛い。でも、優日のこともよく知らないし、彩羽を傷つけたいわけじゃない。 「やめておく」  少し考えて、結局優日からの提案は断ることにした。 「そっかぁ、残念」  口ではそう言いながらも、顔は笑ってるし、大して残念がってるようにも見えない。やっぱり本気じゃなかったのかな。 「あ、そうだ。連絡先教えてよ」  思いついたように言って、優日はスマホを取り出す。  特に断る理由もなかったので、そのまま優日と連絡先を交換する。 「気が変わったら、いつでも連絡して」  イタズラっぽく笑って、優日は先に階段を降りていった。  何考えてるか分からないし、信用できなさそうな人。  私は、彼の提案に乗るつもりはない。  だけど、わざわざサークルにまで入ってきたんだから、このままあっさり引き下がりそうにもないよね。何もなければいいけど、一悶着ありそうな予感。
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