1、恋はあっけなく妹に奪われる

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1、恋はあっけなく妹に奪われる

旭陽(あさひ)と付き合うことになったの」    大学に入学して二回目の春学期が始まってから、二週間ほど過ぎた日の夜だった。寝るためにベッドに入ろうとしていた矢先。ノックもしないで私の部屋に入ってきた妹――蓮見彩羽(はすみいろは)は、何の脈絡もなく、突然そんなことを言い出した。    言われた内容がすぐに理解出来ず、固まってしまう。  ううん。本当は理解は出来ていたけど、理解したくなかったんだ。    旭陽って、あの遠坂旭陽(とおさかあさひ)だよね。  もしも私が思っている旭陽で合っているのなら、私は彼をよく知っている。だって、旭陽は私の好きな人だから。    私は文学部、旭陽は経済学部。学部は違うけど、大学の文芸サークルで一緒。好きな作家が同じだったのをきっかけに、同学年の旭陽とはすぐに親しくなった。  学食でランチしたり、図書館で勉強したり。周りから『付き合ってるの?』って聞かれるくらいには、旭陽とは仲が良いと思う。でも、もしかして私たち良い感じかも、なんて勘違いしてたのは私だけだったみたい。  私がちょっとでもいいなって思った人は、いつも彩羽を好きになる。中学の時から、ずっとそう。  気になってる人から話しかけられてドキドキしてたら、『彩羽ちゃんのお姉さんなんだよね? よかったら、紹介してくれない?』なんて言われたことも。    彩羽は心理学部だけど、大学は同じ。急に『和葉と同じサークルに入る〜』って途中から文芸サークルに入ってきた時はなんとなく嫌な予感がしてたけど、やっぱりだった。  『彩羽には文芸サークルは向いてないよ』って、あの時に止めておくべきだった。読書感想文以外で彩羽が本を読んでるところなんて見かけたことがないし、文学なんて絶対興味ないのに。  彩羽は、私のほしくて仕方ないものをいつだって簡単に手に入れる。 「和葉(かずは)? 聞いてる?」    彩羽が不思議そうな表情を浮かべ、私の顔を覗き込んでくる。くっきり二重で茶色がかった瞳をぱちぱちさせて、お得意の上目遣い。  笑うとえくぼが出来るピンク色の頬と白い肌には、胸の下まであるウェーブがかったピンクベージュの髪がよく似合っている。その場にいるだけで場が華やぐようなキュートで愛らしい女の子。男の子なら、きっとみんな彩羽を好きになる。  妹と言っても、彩羽は私よりも数分後に生まれただけ。  同じ日、同じ場所、ほぼ同じ時刻に生まれた双子なのに、私たちは全く似ていない。二人とも一六二センチで、体格は似たようなものだけど、あとは全然違う。顔も、性格も。    どうして私は彩羽みたいに生まれなかったんだろう。  そうしたら、『双子なのに、あんまり似てないね』って言われる度に傷つかなくて済んだのに。彩羽みたいな女の子だったら、もしかしたら好きな人にも選んでもらえたかもしれないのに。  彩羽とは違って、私はつり目がちな一重。別に怒ってるわけじゃないのに、『怒ってる?』って言われがち。たぶん性格がキツそうに見えるんだと思う。    本当は私も彩羽みたいに髪を明るくしたり、巻いたりしてみたい。だけど、彩羽と同じようなファッションにしたら、ますます彩羽と比べられそう。だから、しなかった。  ウエストの辺りまで伸ばした髪も一度も染めたことがないし、アレンジもしないまま。彩羽が好きなピンクも避けて、わざと違う色ばかり選んでた。スカートも選ばないし、リボンやフリルが付いた服も着ない。
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