おかえり人形

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「はあ……」  誰もいない家に帰る、なんと憂鬱なことだろう。自然と家に向かう速度もゆっくりゆっくりになる。 「ずいぶん深いため息だねえ」  耳に入ってきた言葉に、足が止まる。思わず声のした方に視線をやると、おばあさんがいた。その前には長机に、可愛らしい人形が置いてある。その横には一つ千円と書かれた値札。普通ならそのまま通り過ぎるところだったが、どことなくその人形が別れた彼女に似ていたので、足が向いてしまう。 「この人形……」 「おや、お気に召したかい?」 「……」 「これはおかえり人形といってね、ただいまと言うと、おかえりと返してくれる人形なんだ」  まるでままごとみたいだな、と思う。相手が人形だからか。 「買います」 「毎度あり。これは注意書きだよ」  注意書きはその日のうちに無くした。
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