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初めは、何か不思議なことが起こるんじゃないかってワクワクしてたんだ、俺。ずっと予知夢だなんだってワガママに付き合ってさ、何も起きないんだってことが嫌になるくらいに分かった。
だから、ずっと言おうと思ってたんだ。いい加減子どもみたいなことはやめよう、って。
よかったよ。自分で気づいてくれて──
薄暗い帰り道を、私は一人、うつむきながら歩いていた。
何度、違うことを考えようとしても、無理やり頭を振ってみても。彼に掛けられた言葉が、頭の中をグルグル回る。
痛いヤツって思ってた。一緒になって信じてた俺までバカみたいだから、他の誰にもバレないようにしたかっただけ。
黙ってるから、他の人に余計なこと言わないでね。恥ずかしいから。
そんな言葉が、何度も、何度も。まるで今、耳元で声をかけられているみたいに、何度も彼の言葉が頭の中をグルグル巡る。
私から見れば予知夢でも、彼から見れば、何の証拠もなく、何か不思議なことが起こるでもない、ただ私がワガママを重ねるだけの繰り返し。気づかなかった。今更気づいた。知りたくなかった。初めから手遅れだった。
予知夢とは違うかもしれないけど、泣きながら部屋を出た。今も視界は滲むけど、馴染んだ帰り道だから迷ったりなんてしない。
間違って「ただいま」を言うくらい行った場所と、その帰り道。
そんなことを思うと、また、涙がぶり返す。それを拭い捨てる頃には、私の家に戻ってきていた。
鞄から鍵を取り出す。両親は共働きで、昔から、この時間には他に誰もいない。そんなだから、予知夢のことだって相談しにくくて、ようやく話したその最初で笑われて、それっきり。怖くて、怖くて、どうしようもなかった時だって、自分でどうにかするしかなかった。
結局、何が起きるんだっけ? 泣きつかれてボンヤリし始めた頭じゃ、やっぱりうまく思い出せない。けど、そんなことだってどうでもよくなりつつあって、本当に疲れたから、これ以上考えるのは後回しにする。
鍵を開けて、ドアを開けて。
「ただいま」
まるで無意識に、そう口にしていた。
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