命なる言の葉

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 ──昭和53年4月春──  神崎清海は二人目の子供を身ごもっていた。現在二十週目である。しかし悪阻(つわり)の症状が思わしくなく何度も嘔吐を繰り返していた。食事も受け付けず、体重は減り続けめまいや頭痛を伴い家事はおろかまともに歩くことさえも出来なくなっていた。今は実家に里帰りをしていたがほぼ寝たきりの状態である。検診日以外でも掛かり付けである鐘ケ江(かねがえ)産婦人科に母、時子(ときこ)に連れられ症状を見てもらうほどであった。医師の白石(しらいし)も清海の症状がこれ以上はと考え清海の夫博之(ひろゆき)にも辛いアドバイスを行わなければならないかもと考えていた。時間にも限りがある。すでにデッドラインに近い。  時子は日に日に顔色を悪くし立ち上がることも出来ない清海を思いながら清海の娘、静流(しずる)の話相手をしていた。 「静ちゃん、弟か妹欲しい?」 「うん、欲しい! いっぱいおままごとするから、絶対欲しい!」  笑顔の静流を見る度、時子は深い悲しみに落ちていた。  ──この子の夢は叶えてあげたい……しかし明るい未来が今の清海には想像出来ないのよ──
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