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一度、博之は診察室を出る。野外にある喫煙所でタバコに火をつけた。今回は諦める選択をやんわりと伝えられた。このままでは母子共に危ない。ならば今は母体だけでも助かる道を選ぶべきだとそれとなく告げられた。博之はフラフラした状態で外に出た。無意識にタバコを取りだし火を点けた。
「諦めなければならない? 諦める? どうしろって言うんだよ」
タバコを持つ手は微かに震えている。口に持っていこうとするが動かない。
「決まってる。俺が伝えるべきはひとつだ。それしかない。一つの決意だ。誰から批判されてもかまわない。俺が道を作らないと誰が作るんだ」
やっと口にタバコを持っていくことが出来たその時声がした。
「ここにいたのね。博之さん」
時子が駆け寄った。半腰になり息を整えた。
「清海が……清海が……」
博之はタバコを投げ捨て清海の元に駆けつけた。
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