命なる言の葉

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 清海は酸素マスクを取り付けられ意識が朦朧としていた。酷く危ない状況という。担当医の白石、看護師の竹上と数名で清海を取り囲み処置を施している。今が山場だという。生死をさ迷う状態を目の当たりにして博之の決意は揺らぎ始める。  ──本当にいいのか?──  今、懸命に動く白石や竹上、心配そうに祈りを捧げる時子……そして傍らには、まだ小さい静流がいる。清海を懸命に助けようとしている白石や竹上がいて、清海を必要とする時子や静流がいる。特に静流には誰よりも清海が必要だ。もちろん博之もまだ一緒にいたいと思っている。  ──この意思は本当に正しいものなのか?──     博之は唇を噛んで状況を見守った。何時間経っても生きた心地がしなかった。険しい山道が永遠に続くように思われた。点滴の瓶から一滴一滴と落ち清海の体内へ流れこんでいる。まるで命の鼓動だ。この間、博之は白石に再度呼び出された。今度は曖昧ではなくはっきりと博之に伝えた。 「神崎さん。今回は諦めた方がいい。清海さんを守ることを最優先に考えてください」  清海を守るためにはそれが最善だと伝えられたのだ。途方に暮れる博之。話を聞き終わると外では時子が待っていた。時子はすがるように博之に話す。 「ねぇ、博之さん。多分これは辛いことだけれど、今回は諦めた方がいいと思うのよ。尋常じゃない。清海は頑張ってる。けどこれ以上は身体が持たないかもしれない。私はあなたに清海を預けたのだから、もう私には決めることはできない。お願いします。最善の方法を選んで貰えないかしら」  震える声で時子は懇願した。丁寧にお願いされればされるほど博之の心は(えぐ)られる。もちろん、時子も辛いのだ。 「ねぇ、ママはまだ目覚まさないの?」  あどけなく静流が聞いてきた。 「まだお母さんはお寝んねしたままよ。静流ちゃん、ちょっとお休みしようか?」  時子は静流にジュースを与え待ち合い室に消えていった。  一人取り残された博之は命の選択を迫られた。まるで背後は底の見えない崖があるような気分だった。
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