命なる言の葉

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 清海は予断を許さない。山の頂上から転がり落ちそうな雰囲気だ。白石も焦りの顔が見える。なかなか博之の決断の意思が見えないからだ。このままでは本当に清海が危ない。脈も弱くなる。博之が首を縦に振れば堕胎の準備に取りかかれる。しかしその時は一向に来ない。診察室で天を仰ぐ白石。    病室では博之をはじめ時子と静流が清海を見守っていた。その時だ。昏睡状態だった清海がぴくりと動いた。そして急に譫言(うわごと)のような言葉を発した。 「何を言ってるの、清海」  時子は精一杯、清海を揺り動かした。 「あそこに行くの……今から……行くの……」  訳の分からない言葉を繰り返す清海に鬼の形相で何度も頬を叩く時子。しかし清海は気が抜け目は虚ろに吸い込まれそうな笑顔を浮かべ言葉を止めない。 「行かなきゃ。あそこに」 「ママ……」  時子の形相にただならぬ恐怖を感じて静流は泣きながら清海を呼んだ。博之も声を掛ける。 「しっかりしろ、清海」  何度呼んでも清海は譫言を繰り返す。繰り返す度に血圧は下がり脈も弱くなっていく。 「ママ……ママ……」  静流は清海がピクリとも反応を示さないことに恐怖を覚えている。 「ママ……」  静流が心からの声で叫んだ。  その声に微かに清海は反応したようにみえた。目が一瞬動いたのである。清海の目がゆっくり開く。何度か目が泳いだが徐々に頬に触れる小さい手の温もりを辿る。 「し、ずる……?」  清海は静流の名を呼んだ。時子はぺたりと尻餅を着く。博之はぎゅっと強く、そして優しく清海の手を握った。
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