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「清海、実は今日、白石先生に言われたよ。つわりが妊娠悪阻と酷いもので今、第二段階だって。そして俺はお前が意識を失い、死んでしまいそうなそれを目の当たりにした」
清海は黙って聞いている。
「そして、今回、今のお腹の中にいる子供は清海のことを考えたら諦めたがいいとも言われた」
涙が溢れそうになる清海はぐっと堪えてる。静かな病室ははっきりと本調子ではない清海にもしっかり聞こえた。今、宿してる子をこのまま……博之はそんな辛い決断を迫られてるのかと。
「そして、義母さんからもお願いされた。今回は清海を大切にして欲しいと。静流も清海が必要だからって。だから今回はその子を諦めて欲しいと言われた」
清海は俯いた。
──決してこの人の周りはこの人を苦しめたい訳じゃない。担当医の白石も母さんもこの人を責めてるわけじゃない。ただ私や静流のことを思って言ってるんだ。だから次があると。静流の無邪気な笑顔もきっとこの人を苦しめているのだろう──
「じゃあ今回は……」
──この人の辛さを和らげてあげよう。私がその言葉を代わりに言ってあげよう。この人と共に苦しみ、悲しみを分かち合おう──
「でもな、清海……」
博之は清海が言おうとした言葉を制した。そして目を真っ直ぐ清海を見据えて伝えた。
「例え、周りが……すべての人達が俺に反対しても俺はお前にこの子を生んで貰いたい……だから……」
一瞬で空気を変える博之。
「清海、死んでも産め、産むんだ」
「──えっ?」
清海はくすっと笑った。
──この人ったら死にかけた人間に死んでもだなんて──
心が高ぶった。この人は思った以上に未来を見ている。清海はまっすぐ目を見て言う博之を見て思う。この人を博之を選んで良かったと心底思った。
「俺はお前が生きてくれると信じてる。そしてこの子は絶対お前を助けてくれる。お前の助けになってくれるから。だから俺がお前たちを守るから」
力強く話しかける博之に清海は涙を見せながら優しく微笑んだ。力を振り絞り宿るお腹に手をあて擦った後、お腹に目を向け微笑んだ。
「あなたのお父さんは強い人だわ」
そして博之に心から伝えた。
「はい」
一筋の涙が希望の涙になった。
誰にも邪魔されない二人の約束が交わされた。静かな病室は二人を包んでいた。
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