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控え室で神崎拓斗は白のタキシードに着替える。胸ポケットに自宅の青い花を摘んで拵えたコサージュを差し込む。ふっと息をする。この場所、時間にいることすべてにあの時の出来事に感謝した。拓斗は着替え終わると美郷のいる控え室に赴く。軽くノックすると中からはいと声がする。ドアを開けると鏡台の前に白いドレスに包まれた美郷が座ってこちらを向きにこりと微笑む。
「似合ってるよ」
思わず声を掛けた。
「拓ちゃんもね……ちょっと緊張してる?」
「ちょっとだけね」
控え室の椅子に座り微笑む。
「いよいよだね……今日を迎えたこと本当に良かったよ」
「私もよ」
美郷はさらに満面の笑みで応える。
「ここまでいろいろあったから。感謝しかなくてさぁ」
「そうね。拓ちゃんはいろいろ背負ってるもんね。今生きてることに感謝だね」
「うん。それは美郷も……美郷の両親もそう、それに母さんや父さん……」
拓斗は母、清海から聞かされた、今は亡き父博之との出来事を思い出していた。
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