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帰らない
文子は目を覚ました。すでに朝の六時を回っている。冬の朝はまだ薄暗い。雄二郎は帰って来たのだろうかと思いながらキッチンに向かった。智己も文子が起き上がると同時に目を開けた。
「寒いな」
智己は文子の後を追うように起き上がり居間に向かう。
「おはよう。結局雄二郎は帰ってきたのか?」
お湯を沸かしマグカップにインスタントのコーヒー淹れ智己の元に持ってくる文子。
「まだみたいなのよ」
「そうか。心配することでもないんだろうけどな」
コーヒーを啜りながら新聞を広げた。
「おはよう」
明美も居間に来る。
「あれ? 雄二郎はまだ帰ってないの?」
「そうね、朝帰りみたい。よっぽど楽しかったんでしょう」
部屋から出てきた明美に文子はコーヒーを差し出した。
「ブラックでいいわよね?」
「うん」
首を縦に振り明美はコーヒーを一口、喉に流し込んだ。苦味が明美の頭に刺激を与える。
「しかし、いくらなんでも連絡ぐらいよこせばいいのに」
明美は一言呟いた。
外は徐々に明るくなり始めた。智己はコーヒーを飲み干し外に出る。冷気に智己の吐く息は白く染まる。
「二十歳になったんだし心配し過ぎだな」
智己は帰らない雄二郎に向けて呟く。
しかし、雄二郎はその日から帰ることがなかった。
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