何もなく

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何もなく

 その後、携帯と財布はすぐに見つかった。智己が探しに出た時に、路上に落ちていて見つかったのだ。集落と離れていたため人通りはめったにない。投げ捨てられていた様子もなくただ落ちていたという表現が似合った。  地元の中学の同窓会だったため比較的、参加者に連絡が取りやすかった。三次会まで参加した同窓生に話を聞いたが、雄二郎は一人でタクシーに乗って帰りましたよとのことだった。まるで神隠しに会ったように忽然と姿を消したのだ。  このままでは埒があかないと急いで警察に捜索願いを出した智己。一通り事情を話したあと数日が経った。  警察が訪ねてきた。富岡(とみおか)と名乗った。 「実はタクシー会社が特定でき、雄二郎さんを乗せた運転手に話を聞きました。彼の話によると雄二郎さんは酷く酔ってらっしゃったみたいですが受け答えはしっかりされてたようです。下ろした後は特に雄二郎さんを見ていないようなのですが、別に周りに誰かいる様子もないとのことでした。ここの辺りはご存じのようにあの時間帯は人もうろつきませんし。雄二郎さんのご友人の方々にも話をお伺いしまさしたが、別に怪しいところも感じられませんでした。何かこれといった雄二郎さんに変わったところはございませんでしたか?」 「特に……その日もいつもの様子でしたし……」  智己は答えた。 「そうですか……事件性も考えられますので操作は引き続き行います」 「そうですか。ご迷惑をおかけしますが、引き続きよろしくお願いします」  智己は力なしに頭を下げた。 「どこに行ったのよ。本当に」  文子の声だけがむなしく響いた。
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