四角い箱

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 これでよし、っと。  私は軽やかにマウスをクリックする。  やればできるじゃない。  心の中で自分自身を褒めてやる。  今日一日、一心不乱にパソコンと向き合って、係長から依頼されたミーティング用(クソ)資料は何とか出来上がった。あとは自分の仕事(ざつむ)を済ますだけ。  今日は久しぶりに早く帰れそうだ。  私が大きく頷いていると、係長から声がかかる。 「お、芹沢(せりざわ)、資料もうできたのか。さすがだな」 「ありがとうございます」  係長はオフィスの無機質な壁にかけられた時計に目をやってみせる。  何だか嫌な予感がする……。 「定時までまだ余裕あるな。なら、これも頼むよ」 「えっ……」  まだ自分の仕事が……。  私がそう言うよりも早く、係長は晴れやかな顔で業務部を出ていってしまった。  向かった先は多分喫煙ルームだ。  部内にはカタカタというキーボードを叩く音だけが小さく響いている。  私は壁にかけられている丸い文字盤に向かって大きく息を吐き出してみせた。  改札口を抜けると、私は凝り固まった肩に手を当てながら首をコキコキと回す。  結局今日もいつもと同じ時間になってしまった……。  無意識に足が向かうのはいつものコンビニ。  今日もレジにはアジア系の店員さんが立っている。  何か美味しい物でも食べよう。  そう思うけれど、『何か美味しいもの』が何なのか自分でもよくわからない。  なかなか決められず店内をぐるぐる回っていると、眉の濃い店員さんと目が合った。  マズい。ヤバい奴と思われちゃう……。  私は急いで棚からおにぎりと菓子パンを掴むとレジに向かう。  それが昨日と同じ菓子パンだと気づいたのは、バーコードリーダーがピッと軽快な音を立てた後だった。
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