四角い箱

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 小鳥堂の古い木製のドアを開けると、カランカランと軽快なベルの音が鳴る。  店内は既に満員状態だった。  とはいえ4畳半ほどのスペースに手作りパンが所狭しと並べられているので、お客さんが5人も入れば一杯なのだ。  一人お客さんが帰るのを待ってから私は店内に入る。  目指すのはいつもの棚。  今日は山型食パンが沢山並べられている。  そう、私は今日、早起きして開店直後の小鳥堂へやってきたのだ。  しかも今日は平日。久しぶりの有給だ。  主任はグチグチ言っていたけれど、どうせ私の作る資料なんて誰も見やしない。  私は山型食パンのハーフの袋をトレーに載せるとレジに向かう。 「あら、芹沢さん、いらっしゃい。珍しいですね」  いつもの穏やかな表情で小鳥堂の奥さんが出迎えてくれる。 「今日は有給なんです」 「あら、そうなのね」  奥さんは何だか意味ありげに小さく笑ってみせる。 「サンドイッチ用に薄くスライスってできますか?」 「もちろんよ。ちょっと待っててね」  彼女はもう一度ふふっと笑うと厨房へ消えていった。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加