03.不思議と力が湧いてくる

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03.不思議と力が湧いてくる

 おじさんのゲップのほうがよっぽど臭いと思う。ガ行がさらに鋭く尖り、人を貫けるのではないのかというぐらいには硬く、重々しいゲップだった。  僕はコーラをコップに注いでストローで飲んでいる。一日一杯だけと決められているから、大体は学校帰りにすぐ飲むのだが、今日は母親が弟の習い事の送り迎えで遅くなる日だ。だからおじさんが、あくまでおじさん主導の元、二杯目のコーラに手を出してちびちび飲んでいた。炭酸が舌の上ではじける。ストローをガジガジかじって平たくする。たまにちぎれてプラスチックをそのまま呑み込んでしまうけど身体は特になんともなかった。 「飲むか?」  おじさんが顔を赤くしながら僕に瓶を傾けて勧めてくる。 「苦いの嫌い」  前に好奇心から、こっそりと人差し指を突っ込んで舐めてみたが苦くて嫌いな味だった。 「コーラと割るとうまいぞ」 「嘘だぁ」 「ほんとだって。世の中にはな、コークハイってのがある」 「こーくはい?」  コーラの要素が『コー』しかない。ほとんどが違う飲み物でできているのかと思い、うぇっと舌を出した。 「まだお前には早いか、がっはっは」  おじさんが豪快に笑いながら、ボベェっとおならを噴射した。しばらく掃除されていないであろう、グラウンドの水場よりも臭い。弟がいたなら喜んで「くせー、うんち、うんち」と踊り狂っていただろう。  僕はコーラに手で蓋をして、臭いにおいが入らないようにしながら部屋の隅に避難する。とはいっても布団を引くと2人分が限界の狭さでは充満するのが早くて逃げ場なんてない。まるで学校みたいだなといつも思う。  そういえばおじさんが来た頃は新しい匂いに鼻を鳴らしていたのに、今ではもう気にならない。むしろ無臭に感じて不思議に思う。 「ところでどうだ、最近は? 好きな子でもできたか?」  まったく同じことを昨日も聞かれた。 「山を削るのに忙しいよ」 「いいねぇ若いってのは」  おじさんの好きなところだ。学校のみんなに行った笑うか、驚いて興味なさそうにそれ以上何も言わないか、揶揄うかだ。先生も聞いたからにはとよそよそしく二言三言言葉を交わすだけでそれ以上は何もない。何回言っても飽きずに話を聞いてくれる、おじさんはいい人だ。
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