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05. 自由になれるのか
コーラにメントスの夢を見た。
メントスは僕で、コーラの口を上から眺めていた。誰かに持たれていて、それがゆっくり近づいていく。そして入れられた。
全身を針が突き刺すように痛い。シャボン玉が身体から生まれ、そこを狙って割ってくる。ちくちくちくちく刺されては痛みに叫び、その空気が上に浮かんでいく。
じわじわと表面が溶けて無くなり感覚が消えていく。そして散漫とした意識は一部ボトルの中から飛び出して消え、また僕に戻る。そしてボトルの下に辿り着き、それ以上沈まない中で僕は思った。このまま溶けたら自由になれるのか、と。
暴力を振られることも悪口を言われることもピーマンを食べることも、毎日学校に行くことも。嫌なことから何もかも離れられて、平和な人生を送れるのだろうか。
もう消えてなくなるのがなんとなくわかる。最後まで自由になれるかの答えはでない。でも、もし自由になれたのなら一人で生きてみたいと思った。母も弟も、おじさんもいないところで、一人で……。
うっすら光が見えたような気がして追いかける。途端、全身が重くなる。だるくて痛くて辛い。でも、足を止めてはダメだと身体の奥底から指令が入り、鞭打って動かそうと――
目の前には白い天井があった。見たことがなくて混乱する。息を吐こうにも喉が痛くてスムーズにいかない。
「あ、兄ちゃん起きた!」
見知った顔が天井を遮る。それが弟だと認識すると、身体の痛みが少しだけ和らいだような気がした。
どうやら地震があって、僕はそれから数日後に見つかったらしい。かなり危なかったらしく、人はこんなに泣くのかと言うくらい母が泣いていた。
それからしばらくして僕の入院生活は終わり、母の運転する車で知らない道を通る。土砂崩れがあって今はカセツジュウタク? というところに住んでいるらしい。当然おじさんも。でもおじさんのお金で近々引っ越すのだと言っていた。そのことを話す母の声は安心と喜びで少しだけ弾んでいたような気がした。そして車で通った道から山があった場所が見えた。
平野だった。土砂崩れが起きた後の更地と化している。僕の家もあそこにあって、きっと生き埋めになった人もいるのだろう。おじさんから入院中に聞いていてどこか信じられなかったけど、現実味を帯びて納得できた。
その瞬間懐かしい感覚に襲われる。すぐに思いつく。山を削るまでずっと感じていた怒りだ。山を削ることができなくなり、地道に努力していたものが横から掻っ攫われたとそう思った。
地震が僕の目標を奪った。その事実だけ突きつけられて、何をどうして吐き出せばいいのか分からなくなって。自分の顔すらぐちゃぐちゃにしたいと強く感じてしまった。
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