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「そうだ、クロ」 「はいにゃん」 「お前、今は服を着てないよな」 「ニャ?」 「裸だよな?」 「ニャニャン!?」 「いや、どこを隠してる。変な目では見てない。猫の裸を見て興奮する趣味は無いから安心しろ」 「ふー、焦ったにゃんこ」 「人間に化けたら服はどうするんだ?」 「あ、勝手に服は着てる状態にゃん」 「……お前のスキル、何気にチートすぎるな」 「ありがとうにゃん」 安い宿屋の物陰で人間の普通の容姿の女性に化けた猫のクロ。 どこからどう見ても印象に残らない、どこにでも歩いている普通の30歳の女性だ。 「クロエ母さん、頼んます」 「クロエ、はい、私はクロエ母さんですにゃんよ」 「……まあ、頼んます」 「はいにゃん」 安っすい宿屋の受付で、レイの身分証明証を偽造した身分証明証を出すクロ。   「1泊、子供とお願いにゃん」 「にゃん?」 「口ぐせにゃんよ。気にしない気にしないニャ」 「まあ、そんな人もたまにいるけど」 「そうにゃんか」 (たまに、おるんかい)とツッコミしたかったレイだが黙っていた。   「子連れの冒険者かい。クロエさん、大変だね〜」 「まあ、なんとかにゃん」 「食事はどうする?」  「あー、要らないにゃんよ」 「じゃあ、素泊まりで子供半額だから銅貨4枚半だね」 「はい、レイにゃん」 「え?」 「お金にゃん」 「あ、俺が払うのか」 「そうにゃんよ」 「子供が財布を持ってるのかい?」 「私、良く財布を落とすおっちょこちょいにゃん」 「あー、そんなお母さんもよくいるよ」 「そうにゃんか」 (おい、そんなお母さんがよくいるのか?)ツッコミしたかったレイだが、黙っていた。 代金を払って部屋へ案内してもらう。 かなりの安宿だから、部屋のクオリティーは最低限だ。 隣の部屋の声が聞こえてくる。 「理解してると思うけど、安っすい宿だから壁は薄いよ」 「分かってますにゃん」 「子連れで旅の冒険者なら、禁止事項とかの説明はいらないね?」 「大丈夫にゃん」 「じゃあ、よろしくね」 「はい、ありがとうにゃん」 安っすい宿屋の女将さんは部屋を出ていった。 「おい、猫に戻っていいぞ」 「はいにゃん」 小さな声で話すレイとクロ。 「うまくいったな」 「ですにゃん」 「俺が食事が要らないの、よく分かったな」 「マスターの気持ちを読んだに決まってますにゃん」 「そうだった」 クロは人間の思考がちょっとだけ読めるのだ。 「料理人を降霊して何か作ってもらおうかと思ったが」 「ニャ?」 「この部屋では無理だな」 「火事になりますにゃん」 「隣の部屋にも迷惑だしな」 「はいにゃん」 「うーむ、どうしたものか」 「私、こっちの料理を日本の料理に偽造できるにゃん」 「そうか……あ?」 「こっちの身分証明証を完全に他の身分証明証に偽造できるにゃん。料理も偽造できるにゃん」 「……料理も偽造と言うのか?」 「違う物にするから偽造にゃん?」 「そうか?」 「はいにゃん」 「お前、どんな物でも偽造できるのか?」 「何でもは無理にゃん。マスターの持ち物だけにゃん」 「俺は料理なんて持ってないぞ」 「マスターが買うか貰うかしたら、それはマスターの持ち物にゃん」 「なるほど」 レイは安っすい宿屋のいちばん安い定食を注文することにした。
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