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神様と女神様に捧げる神殿長の踊りがピークを迎える。
「ホイダラ〜ポチッ」
踊りの最後に神殿長は人間としてできるギリギリの体勢で水晶玉を触った。
ボワーっと透明な水晶玉に浮き上がってくる赤い文字。
「むっ? むむむっ!?」
「神殿長様、これは?」
「……ジーク様……貴殿のスキルは……」
「僕のスキルは?」
「……文字化けスキル! です」
「へっ?」
思わず変な言葉が出たジーク。
(え? えっ? 神殿長、今、僕のスキルは文字化けスキルって言った?
でも、確かに読めないし見たこともない文字だ……)
驚きの声がハンド男爵家の面々から出る。
「文字化けスキルだ!?」
「神殿長は文字化けスキルって言ったの?」
「文字化けスキル……」
「マジで文字化けスキルなのか?」
「私のジークが……」
ジークやジークの家族達が驚き騒ぐのも無理はない。
【文字化けスキル】それは、誰も読む事ができない言葉なのだ。
スキル授与の儀式用の水晶玉に浮かんだ文字を見て、初めて人間は自分のスキルを認識して使えるようになる。
目が見えなくても文字が読めなくても、スキル授与用の水晶玉に浮かび上がったスキルは見えて理解することが可能なのだ。
まさに神様と女神様が人間に与えてくれる奇跡。
しかし、文字化けスキルは本人も読む事ができない。読めないと自らのスキルだと認識して使えないのだ。
「神殿長様、僕のスキルが文字化けなんて……そんなの、そんなの嘘か間違いですよね? 水晶玉が古くなってるとかですよね?」
「……」
静かに首を左右にふる神殿長。
「水晶玉が正常な事は事前に何回も試しております。水晶玉が正常な証拠を見せましょう。イランデ〜ルカマンタ〜ル〜ポチッ」
神殿長は水晶玉をタッチした。
ボワーっと浮き上がってくる赤い文字。
【神に仕えし者】の文字が見える。
「ジーク様、水晶玉には何と出てます?」
「神に仕えし者、です」
「はい。私のスキルは【神に仕えし者】なのです。なので、この水晶玉は正常なのです」
「……しかし!」
「もうよい」
「お父様?」
「ジーク、これ以上の見苦しい姿を私や家族に見せるな」
「お父様!」
「ええい! いい加減にしろ!」
「……」
「神殿長、神聖なる神殿で見苦しいところを。申し訳ありません」
「いえ、ハンド男爵様。お気持ちは……しかし、私にもどうする事も」
「分かっております。これも神様や女神様の御心なのでしょう。神様や女神様は時として人間に試練をお与えになさる」
「神様女神様の御心のままに」
「御心のままに」
振り返るハンド男爵。
「みな、帰るぞ」
ハンド男爵はスキル授与の儀式を執り行っていた部屋から出ていった。
その後に続く男爵家の面々。
「……お父様、みんな……」
「ジーク様」
「神殿長様……」
「この先、大変な人生になることでしょう……しかし、全ては神様女神様の御心なのです。お強く生きてください」
「……はい」
ジークはなんとか返事をして、スキル授与の部屋から出た。
家族は誰もジークを待っていてくれなかった。
とぼとぼと家路につくジーク。
ついさっきまで、きっと素晴らしいスキルを授与され前途洋々の人生が送れると思っていたジーク。
その足はとてつもなく重かった。
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