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(それにしても、気絶している僕を心配して部屋の中に誰か1人くらい居ても良いよね?) 強打した後頭部は何ともないようだ。 なんだか身体が軽いし。 スキルも分かった事だし、お父様たちに……日本での家族や友人とかまったく思い出せないな。 ……まあ、今の家族が僕の今の家族だもんな。 ジークは父親や家族に自分の判明したスキルを伝えに行くことにした。 きっとすごく喜んでくれるだろうな。 廊下に出ると、メイドのサリーさんが歩いていた。   「あ、サリーさん」 「……」 「え? サリーさん?」    「……」 メイドのサリーさんが僕を無視してる? すたすたとジークを見ずに通りすぎていくメイドのサリー。 (え? まさか僕はすでに死んでて生きてる人から見えない存在なの?) 不安になったジークは家族の元へ。家族は朝食を食べているようだ。   「皆さん、僕は目が覚めました」 「……あのまま死ぬまで目覚めなければ良かったものを」 「え? お父様?」 「あら? 誰かしら? 私はスキル無しの無能なんて産んだ記憶はないけど」 「お、お母様?」 「この家にスキル無しの無能なんて居ないよね」 「お、お兄様?」 他の兄や姉妹たちも、ジークは最初からこの男爵家に居なかったような発言をした。 「……」 「これから言うことは私の独り言だ。 道で倒れていたジークという子供を助け、この屋敷で保護して寝かせていた。この屋敷で暮らしたいなら使用人として雇うが、それが嫌なら寝ていた部屋の机、その引き出しにある金や品物だけを持って孤児院かどこへでも行けばよい」 「……お父様、僕のスキルが分かったんです」 「ん? 何か騒がしいぞ。誰かなんとかしてくれ」  「お……」 使用人たちがジークをその場から連れ出そうとした。 「いえ、自分で歩けますので」 すたすたと自室へ向かうジーク。 (……どうやら俺はこの男爵家に最初から存在しなかった者になったようだな) 12歳のジークの精神は、だんだんと日本で大学生だった二十歳の精神へと変わってきた。   (まあ、異世界転生降霊術師のスキルがある俺だ。なんとかなるだろ) 自室の机の引き出しを確認した。 小さな革袋にお金が入っている。 金貨1枚、銀貨10枚、銅貨20枚。 日本円に換算すると金貨1枚は5万円、銀貨1枚は5000円、銅貨1枚は500円くらいになるから、合計で11万円くらいだ。 他にも中金貨や大金貨、中銀貨や大銀貨、大銅貨や中銅貨に小銅貨などが存在するが、それらはなかった。 あとは、廃嫡(はいちゃく)証明書だけだ。 部屋を見渡す。ジークの持ち物だったはずの物が何も無い。 机やベッド、寝具、カーテンはあるが。 「まあ、異世界転生降霊術師のスキルと、日本で大学生だった二十歳の俺の知識。何とかなるだろ、人生なんてケ・セラ・セラだ」
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