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役所窓口で手数料を支払ったジーク
「これは領収書と身分証明証の引換券です」
「ありがとうございます」
新しい身分証明証が完成するまで1時間。さて、どうするかとジークは考えたが、今日は何も食べてないし飲んでないことに気がついた。
役所は街の中心部にあるし、役所で働く人が交代で食事にも行くので近くに食堂屋さんが何軒かある。
そのうちの一軒にジークは入ってみた。
時刻は10時前。食堂屋さんの店内に客は数人。
「いらっしゃ~い」
「失礼いたします」
「失礼いたしますって。どこかのお坊ちゃんです?」
「以前はハンド男爵家の三男でした」
「へあっ!? 」
ガクブルしだす食堂屋さんの女将さん。
「し、失礼いかしました!」
「いえ、勘当されまして。もう今は平民の子供と同じ身分ですので遠慮なくいつも通りに接してください」
「そうなの?」
「はい」
「はー、貴族様も大変なんだね」
「まあ、そうかもですね。今はとてもお腹がすいてます」
「あー、定食とか食べたいのかい?」
「できれば」
「朝の定食時間は過ぎたんよね」
「あ、そうなんですか」
「この時間帯はパンとスープしかないんよ」
「では、それをお願いします」
「はいよ」
少しすると、女将さんがスープとパン1つを持ってきた。
「はい、お待たせね」
「ありがとうございます。いただきます」
「はいよ」
スープとパンは美味しくなかった。いや、昨日までの自分なら普通に美味しいスープとパンなのだろうけど、日本での食事を思いだしたジークには美味しく感じなかったのだ。
パンを少し食べ、スープも少しだけ飲んで、あとはまったく手をつけないジークに女将さんは尋ねた。
「あの~、美味しくないかい?」
「あ、すみません。やはり定食が食べたい気分なので……」
「そうかい……でも、料理人は休憩でちょっと用事をしに行ってるんだよね」
「……あの、できたら俺が料理を作っては駄目ですか?」
「はい? お坊っちゃんが?」
「お坊っちゃんはやめてください。俺の名前は……レイです」
「レイ君かい、良い名前だね」
「ありがとうございます」
女将さんは少し考えた。
「いいよ、好きな料理を作ってみて。どーんと」
「ありがとうございます」
ジークは異世界転生降霊術のスキルを使ってみることにした。
ジークはこれまでこっちの世界で料理なんてしたことがない。
日本でもあまりしてなかった。
日本で子供の頃にテレビ番組の再放送とかで見た「料理の帝王」、味吉料吉。すでに故人となっている。
超天才料理人と言われていた味吉料吉を、ジークは降霊術で自らに憑依させることにした。
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