おばあちゃんの夢

**登場人物:**
- **菜々子**: 30代前半、忙しい日々を送る働く女性。優しいが少し疲れている。
- **おばあちゃん**: 菜々子の祖母。グループホームで暮らしている。穏やかで、いつも菜々子のことを気にかけている。
- **優子**: グループホームのスタッフ。明るくて親切。

---

　菜々子は仕事で忙しい日々を過ごしていた。朝から晩まで働き詰めで、帰宅するとただ「ただいま」と呟き、すぐにベッドに倒れ込む毎日だった。部屋に積み上げられたクリーニングの袋が、彼女の疲労度を物語っていた。

　ある日、菜々子は仕事から帰ってきて、部屋の中に漂うラスクの香ばしい匂いに気がついた。不思議に思いながらも、テーブルの上に置かれた袋を手に取った。中には祖母が大好きだった手作りのラスクが入っていた。

「おばあちゃん、どうしてここに？」と菜々子は驚きつつも、すぐにおばあちゃんが夢に出てきたことを思い出した。夢の中で、おばあちゃんは優しく微笑みながら「ただいま」と言って、ラスクを手渡してくれたのだ。

　次の日、菜々子は仕事帰りにグループホームへ寄った。おばあちゃんに会うと、彼女はいつも通り穏やかな笑顔で迎えてくれた。

「おばあちゃん、昨日、ラスクを持ってきたの？」菜々子は尋ねた。

　おばあちゃんは首をかしげながらも、「あら、夢でも見たのかしらね。でも、それはよかったわ。あなたが笑顔になるなら、それで十分よ」と答えた。

　その日の夜、菜々子はおばあちゃんの言葉を思い出しながら眠りについた。深い眠りに落ちた彼女は、また夢を見た。夢の中で菜々子は、自分が小さな子供に戻っていて、おばあちゃんの家で歌を歌いながら枕を並べて眠っている場面が浮かんできた。

　次の朝、菜々子は不思議な気持ちで目覚めた。ベッドの隣には、グループホームにあるはずのおばあちゃんの枕が置かれていたのだ。驚きながらも、彼女は笑みを浮かべた。

　その日、グループホームを訪れると、優子さんが不思議そうに話しかけてきた。「実は、昨夜おばあちゃんが夢遊病みたいに起きて、菜々子さんの枕を持って歩き回っていたんです。でも、どうやらまたベッドに戻ってちゃんと寝てましたよ」

　菜々子は笑いながら、「きっと私に、夢の中での『ただいま』を伝えに来てくれたんだね」と答えた。

　その日から、菜々子は毎晩、眠る前におばあちゃんの枕をそばに置くようになった。仕事で疲れても、クリーニングの袋が積み上がっても、菜々子は「ただいま」を伝えることで、心の温かさを感じ続けた。

　そして、ある夜、また夢の中でおばあちゃんと一緒に歌を歌いながら、ラスクを食べている光景が浮かんできた。彼女は幸せそうに目を覚まし、微笑みながら「おばあちゃん、ありがとう」と呟いた。

　おばあちゃんとの心温まる交流は、菜々子にとって何よりも大切な宝物となった。