落ちる音

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 仕事の一環として参加した、グループ会社の若手同士の懇親会。  懇親会という名前の通り、部署や会社の垣根を取っ払って参加者同士が親睦を深めたり、今後の仕事を円滑に進めるために顔を売る場だと思う。  決して合コンや婚活パーティーではないし、そんな事は参加者全員分かっているはずだ。  それなのに高槻さんが会場に入った瞬間、分かりやすく女性陣の視線が一点に集まる。  キャーキャー騒ぐような人は誰もいなかったけれど、近くの同僚に「凄いかっこいい人だね」と耳打ちする人や、失礼にならない程度にチラチラと何度も視線を向けている人が大勢いた。  見惚れている、とでも表現すればいいのだろうか。ほとんどの女性の瞳の奥に熱がこもっていて、恐らく私も似たような表情をして彼を見ていたのだと思う。  これが合コンの類だったら、彼の近くに座るために水面下で女性同士の攻防が行われていただろう。  しかし今回はそれなりの規模の懇親会で、事前に座席が決められている。  会場内の視線を一身に集めるその人物も座席表に従うしかなく、自分の席を確認したあと私の隣の椅子に腰かけた。
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