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その一言。(視点:アキ)
一年ぶりのケンジ君の家。やっとまた戻って来られた。ダイニングチェアに座り色々な話をした。夕方からは、映画を見つつちょこちょこお酒を飲んだ。そして、二十時を回ったので先にお風呂を貸して貰った。今は入れ替わりにケンジ君がお風呂に入っている。もう一度水音を確認してからそっと本棚へ向かった。壁との間に空いている、隙間とも言えない僅かな空間。そこに手を入れようとしたけれど、流石に無理だった。まあそうだよね。力を込めて本棚をずらす。ちょっとだけ動いた。それで十分だ。改めて手を突っ込み、目的のモノを引っ張り出す。
私の髪の毛で作った、私をかたどった人形。中には私の両手両足の爪が編み込んである。
髪を切り、ネイルもやめた。この人形を作るために。
呪いを込めた。この家に女を連れ込んだら、喚き散らす私の霊が現れる呪いを。初めて出現した時、流石に狼狽したケンジ君が電話を掛けて来た。生霊だと思う、と答えた。私が君をまだ想っているせいで現れる、という話へいずれ落ち着くように。
うまくいった。帰って来られた。私は彼を愛している。誰にも渡さない。そして彼も私の大切さに気付いてくれた。あとは家族になるだけだね。今日はその始まりの一歩。彼がお風呂から上がり、もう少しお酒を飲んだらまた恋人のように過ごすのだ。
呪いの人形はもう要らない。鞄の奥底に仕舞い込む。もう生霊は現れない。代わりに私が此処へ来るもの。
また楽しく、そして今度はずっと、一緒に過ごそうね。
あぁ、それにしても途方もなく長い一年だった。ずっと言いたかった。早く呼んで欲しかった。待ち詫びていたよ。
この家の扉をくぐって、ただいま、っていうその一言を口にする瞬間を、ね。
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