イントロ

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イントロ

おれの親が学校によび出されるのは、そうめずらしくはなかった。 一回目は、学校のまどをボールでわったとき。 二回目は、クラスメートの蓮川空のパンツを見ようとして、せいふくのスカートをむりやり引っぱって、なかしたとき。 三回目は、そうじの時間にクラスメートの飯塚翼をホウキ入れに閉じこめたとき。 今回は、この飯塚翼を悪ふざけで冬のプールにつき落としたから、また親が学校によび出された。 おれはそのことで、すごくしかられた。しかられた日は大こう物のアスパラガスのベーコンまきとトマトのロールキャベツとハンバーグを食べさせてはもらえない。代わりに、大きらいな焼きナスとニンジンりょう理をたくさん食べさせられる。その上、カードゲームも取り上げ。 おれは蓮川空も飯塚翼もきらいじゃない。しかし、大人とクラスのみんなは、おれが二人をいじめてると言っていた。 けれど、おれは四年生で二番目に勉強がよくできるし、スポーツもうまいから、友だちはたくさんいる。おれをすきだって言う女の子も何人かいたけど、おれはその子たちには興味ない。 おれが一番一緒に遊びたいのは、飯塚翼と蓮川空だけど、この二人はおれと遊んではくれなかった。いつもいつも二人だけでくっついていて、ほかのだれとも遊ばなかった。 空はよく何人かの男の子たちにかみを引っぱられたり、せいふくにハナクソをつけられたり、ランドセルの中に虫を入れられたり、ブスとよばれてた。 おれもそのいじわるな男の子の一人。だから、空はおれやその男の子たちにはやさしくなかった。けれど、翼とはいつも楽しそうだった。くやしい。 翼は四年生で一番に勉強ができて、頭がよかった。テストはいつでも100点で、図工も花丸だ。クッキーも自分で作れるらしい。翼はたぶん天才だと思う。 給食の時間も何も食べ残さないから、えらい。おれと同じ班だから知ってる。おれはニンジンが大きらいだから、残したときは翼にむりやり食べさせて、なかしてる。翼も本当はニンジンがきらいらしい。 ほうか後によく、いのこりになるおれが帰る時間でも、翼と空は二人で学校にいることがある。前には何回か学校のうらにわで、ウサギたちにえさをあげてた。だい一、教室から丸見えだから、むかつく。 ある日のこと、おれはそんな二人に、後ろから話かけてみた。 「そのウサギたち、デブだよな」 ケージの中の太ったウサギたちにえさをあげていた二人は、おれの声を聞いて、びっくりしてた。まさか、おれがうらにわに来るなんて思わなかったかもしれない。 翼はいつもと同じで、おれをつまらなそうに見ていて、空はおこった顔になってた。空はおれのことが大きらいのようだ。 「あっち行ってよ」 そういつもと同じことを言った。 「うるさい、ブス」 おれもいつもと同じことを空に言った。 「やめなよ、権田君」 翼はおれに文くを言った。翼はよく、いじわるな男の子たちから空を守もってる王子さまのようだった。 「翼は、こんんなブスがすきなのかよ」 そしたら、翼はむかついておこると思ったけど、おれを見てにやにや笑っただけだった。何かをみやぶりそうな顔だ。 「権田君こそ、空ちゃんが大すきなんだね」 「はあああ?!お前、死ねよ!」 おれはむかついて、翼に一番最悪な悪口を言ってやった。 翼はアハハと声を上げて笑うと空の耳に何かヒソヒソ話をした。なんだか、もっとむかついた。 「なんだよ!気もち悪いな!」 「ごめんごめん。君の顔がすごい赤くてね」 翼はまた笑いながら言った。 「お前らがむかつくからだよ!」 翼はどなるおれをむしした。そしたら、急にポケットから板チョコレートを出した。 「権田君、これほしい?」 チョコレートはおれの大こう物。サッカーとバスケよりも大すきだ。 「この中にはね、金のカードが入ってるんだ」 翼はまたにやにや笑いながら、おれの目の前に金色のカードをヒラヒラさせた。 ゴールデンカードというのは、今おれが一番はまってるカードゲームのちょうレアカードで、全国で50人しか手に入らないものだ。 「じつはね、ぼくはカードに興味ないから、君にゆずってもいいよ」 翼は、そんな信じられないことをおれに言った。翼は頭がおかしいのかもしれない。 「お前、まじかよ!」 おれは目の前のゴールデンカードに目がくらんだ。ついでに、チョコレートもお母さんが買ってくれるやつより大きいからほしい。今そいつらを手に入れるためなら、おれは翼に何でもすると思う。 「うん。でも、その代わり、これからぼくんちに来て」 おれは翼と空の顔を見てみた。もしかして、この二人はおれをからかっているだけかもしれない。カードがほしくてしょうがない。 「おい!あやしいぞ!」 おれは二人をにらんで、翼がさし出すチョコレートだけうけとった。そして、それをおいしく食べた。こんな高そうなチョコレートを翼は親にいつでも買ってもらえるらしい。くやしい。 「うそじゃないよ」 今どは空がおれを見てにやにや笑った。 「ぼくたちを信じてよ。そのチョコレートなんかよりずっと良いごちそうもあるんだ」 翼が自分のことを「ぼくたち」とよぶのが気にいらない。 翼は学校で一番かっこよかった。それとも、かわいいのか。よくわからないけど、おれはきれいとも思う。学校の女の子たちとかおれのお母さんよりもきれいだ。 空も翼に負けないけど、おれは少し負けてる気がする。 「だれがお前んちなんかに!」 おれは翼の顔にむかって大声で言った。 「じゃあ、この金のカードは君にやらない」 おれは、すごく迷った。やっぱりゴールドカードはほしい。それと、翼の家は大金もちらしいから、家もきっと広くて楽しいのかもしれない。ごちそうも興味ある。 「ふん!行けばいいんだろ、行けば!」 翼と空はうれしそうに笑った。 「じゃあ、三人で行こう」 翼は空の手を引っぱりながら、歩きだした。やっぱりむかつく。 「なあ!蓮川なしじゃだめなのかよ!」 おれがそう言うと、空はまたおこった顔でおれをにらんだ。 「空ちゃんも一緒だよ」 翼がさらっと言う。 「おれ、やだぞ!」 「わたしもやだよ!権田なんか大きらいだもん!」 「なか良くしようよ。ぼくんち楽しいから」 おれは仕方なく、翼と空のあとについて行った。あのゴールドカードを手に入れるためなら、それぐらいはできる。
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