栗毛聖女、GFOを始める。

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栗毛聖女、GFOを始める。

 コンバートが実行されて視界が暗転し、―――しばらくすると壮大なBGMと共にタイトル画面が浮かび上がってきました。 『 Welcome to the GOD・F(Frontier)・Online 』 「この感じ懐かしいなー。新しいゲームを始める時のワクワク感って大事だよね」  暗闇に輝くキラキラしたタイトルの英語表記、そして『F 』に込められたFrontier(開拓・最先端)という単語をゲームを始めてから教えてくれるという演出に心躍ります。 『この照光世界(しょうこうせかい)を司る神の名は陽光神ライティオ、古の時代に【破滅の大厄災(ワールド・ディザスター)】と呼ばれる謎の現象と戦い、姿を消したと言われていた。しかし、陽光神の導きが様々な次元の世界を繋ぎ、祝福を与えて各世界で活動している冒険者たちをこの世界に招いた。そして姿を現した陽光神はこう言った「世界が再び【厄災】の混乱に包まれます。日御子たちよ、世界を開拓し英雄を解放してください」―――日御子と呼ばれる招かれた冒険者たちの旅が始まる』  物語のバッククラウンドが壮大なムービーと共に語られ、私はこのゲームのメインストーリーを〝陽光神の祝福を受けた日御子として【厄災】と呼ばれるモンスターを倒していくこと〟と記憶に留めます。 「あ、なんか見えてきた」  暗い空間でシアターのように見せられていたムービーも終わり、視界が徐々にいつものVR世界の映像へと切り替わっていきます。シュンッというシステム音と共に私はGOD・F・オンライン(GFO)の世界へと降り立ちます。 「⋯⋯みんな、また合おうね」  新しい世界には青空が広がっていて、それは月影オンライン(MSO)というゲームタイトルの通り、昼夜はあれど基本的に薄暗く空はいつも星空で覆われていた向こうの世界とは全く違う空でした。 「いやー、空が澄んでて綺麗だね~。薄明りに慣れた……私には少し眩しいけど」  茉実ちゃんとはゲームを始める前に転移先の話をしており、待ち合わせ場所としたホルア帝国領はプレイ開始地点として一番難易度が高いと二人で読んだ雑誌に書いてありました。 「えっと、あの看板が商人ギルド、その横が冒険者ギルドかな。あ、あの薬のマークはきっとアイテムショップだね」  プレイヤーが一目見て建物が分かる様にと基本的な施設には文字やマークの書かれた看板が掛かっており、周りに何軒かある民家よりも一回り大きい建物でした。 「小さな町にしてもプレイヤーが何人か入れるように大きくは作られてて、施設だとすぐに分かるってのは初心者にはありがたいよね。なかなか考えられてるよー」  ローンチタイトルだったMSOでは、VRのMMORPG(ネットゲーム)でのプレイヤー数に対する必要な建物の大きさなど手探りだったようで、目当ての施設を探すのも一苦労、おまけに何日も冒険者ギルドの建物に入れないプレイヤーがいたことを思い出して懐かしみ、最適化されたこのゲームに感動しました。 「うん、まさに最先端(フロンティア)だね」  最古のVRMMORPG(ネットゲーム)と比較したらどんなゲームでも最先端かなと言葉に出した後に思ってちょっと恥ずかしくなりましたが気を取り直して町を進むと、木製の剣や杖、盾を持った冒険者風のプレイヤーがちらほらと視界に入ってきました。 「もしかしてチュートリアル中かな? 武器は持ってるけど防具は揃ってないみたいだし」  かくいう私も村人(NPC)の色違いで簡素な服を着ており、持ち込んだ装備はほとんど外されていました。 「私のも職業とレベル制限かな。聖職者になれば装備できると思うけど」 「あの、すみません」 「……私ですか?」 「はい。初心者ですよね? よければ案内しますよ?」  装備ウィンドウを開いて眺めていたら不意に背後から声をかけられました。振り返り見ると木製のロングソードに丸盾、そして木の板で出来た鎧を身に付けた見知らぬ男性プレイヤーでした。 「装備を何もされていないようなのでゲームを始めたばかりの人かなと」 「あ、お気遣いありがとうございます。大丈夫です」  私は断りの言葉とともに右手の中指に嵌められた指輪を見せます。装備制限がなくコンバートで外されなかったアクセサリーの[流星の指輪]は黒曜石のような輝きを放ってレアリティの高さを主張していました。 「―――そうですか。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてください。僕、もうしばらくこの町にいますので。では」  指輪を見て何やら驚愕したようで、男は他プレイヤーと何処かへと去っていきました。もしかしたらこの指輪がMSOの装備と知っているるプレイヤーなのかなと思いました。 「そういえばこの町から始めるって難易度高いから困ってる初心者多いのかもね」  救済措置で別の町へ転送してくれる機能はついているようですけど、高難度指定されているこの町へは最初に選ぶか歩いてくるかしか来る手段がないと書いてあったのを思い出しました。 「最初の町で人助けかー。MSOでもそんな人たちがそういえばいたね」  全てにおいて調整不足、そんなゲームで戦うモンスターは大人数パーティー推奨の難易度で、人との繋がりがない初心者に声をかけて一緒に倒してあげていたプレイヤーたちの存在を思い出します。 「さて、断りはしたけどちゃんと今のステータスとか確認しておかないとね。えっと、まずはこのまま装備確認っと」  開いたままの装備ウィンドウから隣に表示されているアイテムウィンドウに目をやると、指輪以外の持ち込んだ武器と防具は予想通り職業制限で外れているだけでした。レベル制限はないので転職さえすれば問題はなさそうなので安心します。 「えっと、次はステータス。レベルは1で、あ、ステータスポイント振ってないや。あぶないあぶない、とりあえず全部INTでいいかな」  慌てて魔法職に大きく影響を及ぼすステータスのINT(知力)へと全てのポイントを注ぎ込みます。初期ステータスポイントの振り分けを行っていないことに気付けて確認をして良かったと安堵します。 「スキルは⋯⋯ちゃんと残ってるね。灰色なのはきっとジョブがまだ聖職者じゃないからかな。そなると、とりあえず転職にいけばいいのかな」  スキルポイントはありますがスキルが取得できない状況のため最初の目的を転職として行動を開始します。 「それにしても私をチラチラと見てどうしんだろ? さては私が可愛すぎて気になるのかな?」  栗毛の目立たない感じのアバターではありますが可愛いを私なりに追求しているので自惚れてもしかたがないとは思いますが、聞こえてくる〝栗毛〟の単語で珍しさで見られていたと察します。 「あー、みんなキラキラの金とかファンタジーな色合いの髪をした美男美女だもんね。―――たぶんここかな」  MSOと同じなら教会で転職できるはず、そう思い扉を開けて中に入ると太陽に照らされた大きな大樹のステンドグラスが目を引きます。 「うわぁ……、凄い綺麗」  その雄大さにしばらく見惚れてしまいました。この世界の神は陽光神なので、日の光が大地を照らすのを意識したものなのかなと思いました。
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