12人が本棚に入れています
本棚に追加
ただいまと言える場所
ただいまと言える場所があれば、あの人は帰ってくる。
お風呂の準備に夕食の用意。
笑顔で見送り笑顔で迎える。
ここが貴方の帰ってくる場所で、私と貴方の居場所。
「残業で遅くなるから」
それだけ言って切られる電話。
最初の頃は「わかった。お仕事頑張ってね」と声をかけて通話を終えた私は、一人の空間で夕食を食べていた。
寂しさはあったけど、仕事なら仕方がないと思ったから。
そんな日が増え、寂しさで「最近一緒に夕食食べれてないね」と電話越しにつぶやいたら「仕方ないだろ。仕事なんだから」と言われ切られた。
朝起きると手付かずの夕食が置かれていて、朝食を準備しても「今日も早いから」と言い残し言ってしまう。
しばらく夫からの『ただいま』は聞けていない。
行ってきますの一言もなくて、次第に私の心は蝕まれる。
私は貴方にとって何なのかわからない。
そんなある日、職場の数人を連れて行くからと言われ張り切って料理を作る。
一月以上家で食事をしていない夫に、久しぶりに食べてもらえることが嬉しかった。
お仕事で忙しい夫に、今日くらいはゆっくり料理を食べてほしい。
夫が家に職場の人を呼ぶのは初めてだから、みんなに喜んでもらえるように頑張った。
肉料理が好きな人や野菜料理が好きな人が来ても大丈夫なように、どちらの料理も用意する。
時計に視線を向ければそろそろ着く時間。
少しして鍵が開く音がしたので出迎えれば、夫と男女一人ずつの姿がある。
笑顔で迎えリビングに案内すると、男女二人がテーブルに並べられた料理に注目した。
「豪華な料理ですね」
「私、料理苦手なので是非教えてほしいです」
高評価をもらえて嬉しいけど、夫の反応が気になりチラリと見れば「こんなの主婦なら出来て当然だろ」と言いながら、二人に座るよう促す。
久しぶりの家での食事。
喜んでもらえると思っていただけにショックはあったけど、夫の言う通り主婦なら出来て当然のこと。
「うま! こんな料理食べれるなんて羨ましいなあ」
「大袈裟だろ。俺は菜結ちゃんの料理のが好きだなー」
夫の言葉に私はピクリと反応する。
まるで、菜結と呼ばれている女性の料理を食べたことがある言い方。
最初のコメントを投稿しよう!