第1話 目覚めたらヴォーカルに逃げられてた

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第1話 目覚めたらヴォーカルに逃げられてた

 最悪の朝だった。  昨夜のライヴの出来が良かったので飲み過ぎたアルコールが響いている。頭の中で、十くらい並んだ礼拝堂の鐘が乱痴気騒ぎをしているようだった。  完全なる二日酔い。そんな言葉が俺の頭の中でようやく形を取る。そしていつものように腕を伸ばす。するといつもなら、同居人の背中に触れるはず…  はずだった。  俺は慌てて飛び起きた。  同居人の居るはずの場所は、妙に冷えていた。広くもない部屋の中は、ひどく静かで、耳なりがするくらいだった。  窓の外、カーテンのすき間からは、見事なくらいの上天気の空がのぞいていた。光とあいまって目に痛いくらいの青空。見上げたひょうしにまた頭の中に鐘が鳴り響いた。 「めぐみ…」  同居人の名を口に出してみる。だが答はない。  俺は背中の半分くらいまである、長い、色を抜いた髪をかきあげ、寝る前に手につけておいた太いゴムでくくると、ジーンズをつけた。  やはり気配はない。買い出しにでも行っているのだろうか?視線を移す。半分開いた引き戸から見える玄関には、靴が一足しか見えない。昨夜自分が脱ぎ散らかしたブーツ。それがきちんと揃えられている。  そしてそのまま、右へと視線を巡らすと、黒い折り畳みのテーブルの上に、何やら紙が置かれている。上には俺のよく吸う煙草の箱が封も切らずに置かれている。  何だろう、と思った。そして書いてある文字の意味が、最初はよく判らなかった。 「今までありがとう」  その言葉の意味が判った時、俺の頭で鳴り響いていた鐘が一斉にその音を止めた。
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