6人が本棚に入れています
本棚に追加
【ミステリーBL】5話(1)【1分あらすじ動画あり】
「ヤァヤァヤァッ! よく来たね! もっと顔を見せておくれ。抱きしめさせておくれ!」
〝神父様〟は大きな体全部を使うようにしてハグすると、相手の両頬にキスを送った。直樹も照れながらそれを返す。昔から何度も交わされた友人の証を。
「〝神父様〟ご無沙汰していました」
直樹が軽く頭を下げると、相手はわずかに涙ぐみながら、こくこくと頷いた。
「あぁ。本当だね、本当だよ。君たちがいなくなってから、どれだけこの村が寂しくなったと思っているんだい? でもまぁ、こうして帰ってきてくれたことに感謝するとしようじゃないか! よく来てくれた、ナオ。君のことはヒロミから少し話は聞いているよ。外で色々と大変なこともあっただろう。よく頑張ったね」
〝神父様〟は慰めるように直樹の頬を撫でた。
この人はいつだってそうだ。直樹は小さく身じろぎする。
彼の大仰なスキンシップは日本人の自分にとって、いつまで経っても慣れない気恥ずかしいものであった。
村の住人である〝神父様〟はドイツから来た宣教師だ。ただしそこには〝元〟がつく。彼は以前、神戸の教会に勤めていたらしいが、老年にさしかかると同時に隠居を考え、この村にやってきた。
ゆえに彼はもう「神父様」ではないのだが、フォン何とか何とかという彼の本名を村の老人たちは覚えきれず、もっぱら〝神父様〟と呼んでいる。本人もそれを直したりする様子がないため、今では村人全員がそれに習っていた。
「ナオ、しばらく見ないうちに綺麗になったね」
直樹の頬を大きな手で包みながら〝神父様〟は零れんばかりの笑顔を向けた。その口調はスキンシップ同様、過度なくらい甘いものであったが、彼はそれを無邪気な子供のように言うものだから始末が悪い。
「あの〝神父様〟……今のは普通、女の子に言うセリフですよ。日本では、」
「はは。何を言っているんだい、ナオ。性別や国なんて関係ないよ。君たちはこの村全員の孫みたいなものなんだ。そんな孫が久しぶりに帰ってきて、見違えるほど綺麗になっていれば、言わずにはいられないのが普通だよ」
ギュッと〝神父様〟が抱きしめてきた。
これじゃまるでクマに襲われた人間みたいだな。傍観していた浩美が忍ぶように笑った。するとそれを目ざとく見つけた〝神父様〟は太い腕を川鮭をとる勢いで浩美の肩に回すと、二人を一遍に抱きこめた。
「ナオ、ヒロミ。君たちは村の宝物だよ。みんな君たちのことを見守っている」
名残惜しそうに二人を離した〝神父様〟は、先ほどとは打って変わって意気消沈した様子で言った。
「だからハルが、あんなことになってしまったのは残念だ。君の片割れの兄弟はまだ見つからないんだろう?」
○●----------------------------------------------------●○
9/30(Mon)
閲覧いただき、ありがとうございます。
『不惑の森』の動画ビュー増加数の方が2ビュー多かったので、
今週はこちらを更新させていただきます。
動画を見てくださった方、ありがとうございます!
また、「郁嵐(いくらん)」名義で
ブロマンス風のゆるい歴史ファンタジー小説も書いています。
新連載を始めましたので、気軽におこしくださいませ~
◆あらすじ動画
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
※本編情報は概要欄にございます。
良い週をお過ごしください!
○●----------------------------------------------------●○
最初のコメントを投稿しよう!