【神隠しミステリーBL】6話(2)【1分あらすじ動画あり】

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【神隠しミステリーBL】6話(2)【1分あらすじ動画あり】

○●----------------------------------------------------●○ ↓現在、以下の2つのお話が連載中です。↓ 週末に動画のビュー数を見て、 増加数の多い方の作品をメインに更新したいと思いますmm ◆『不惑の森』(神隠しミステリーBL) https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU ◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL) https://youtube.com/shorts/GBWun-Q9xOs ○●----------------------------------------------------●○ 森へと至る林道の終着点には、大きな空地がある。 ここはかつて、高度経済成長期に計画された別荘群建設の予定地だった。だがバブル崩壊とともに事業は水に流れ、撤去する予算すら賄えないまま、半端に開墾された土地が野にさらされていた。 「へぇ、まだここあったんだね」 車を降りた直樹は、森が取り囲む空地をぐるりと見回した。一方の浩美はしぶしぶと表に出るとサイドドアへと寄りかかり、直樹の後姿を観察した。 〝彼〟が村に来てから自分は何度こうしてその姿を目で追っただろう。彼の行動、仕草の一つ一つを見逃すことのないように。そしてその度に自分に問いかけるのだ。 ――〝彼〟は春樹なのか、直樹なのか。 その答えは、いまだにわからないままだ。 浩美は〝彼〟の方に体を向け、ため息をついた。 「ここに関しては親父も、何度か事業の再開を申し出たらしい。でもその度に予算が間に合わなくて、結局いつまで経ってもこのままだ。……お前はどうして、こんなところに俺を連れてきたんだ?」 固い声で問うと〝彼〟が振り向いた。 「そんなに警戒しなくていいよ、浩美。俺はお前とゆっくり話したくて、ここに来ただけだからさ」 朗らかに笑った〝彼〟の表情にはどこか影が宿り、それが浩美の胸を粟立たせた。 直樹はこんな笑い方はしないはずだ。昔のアイツはいつも、カラリと笑っていたのだから。 浩美は相手から視線を逸らし、聞いた。 「――村で過ごした記憶がないってのは本当なのか?」 「本当だよ。まぁ少しだけ覚えてることもあるけど……」 「ふうん。じゃぁ、あの日のことは?」 「兄貴がいなくなった日のこと? それなら、まったく何も覚えてない。残念だけど」 神妙な直樹の声にどこかおかしさを感じた浩美は、片頬を上げて笑った。 「そんな都合のいいことって、本当にあるのかよ。映画やドラマじゃないんだし」 浩美の揶揄に気がそがれた様子もなく、〝彼〟はわずかに口元を緩めた。 「さぁね。でも俺の場合、カウンセリングで処方された安定剤やら睡眠薬やらで、記憶力がすっかりと鈍っちゃったところに原因があるのかも。それに周りのみんなが、ここでのことは忘れろっていうもんだから、すっかりとそれに流されちゃって。ホラ、俺って根は素直だからさ」 はっ、何が素直だよ。浩美は心の中で悪態をつき、意地悪く聞いた。 「じゃぁ、そんな素直なお前は、自分が直樹なのか春樹なのかすらも忘れちゃったって訳?」 「つっかかるね。俺がどっちなのか、そんなに気になる? じゃぁさ、浩美は俺にどっちであって欲しい訳? やっぱり春樹? ねぇ、答えてよ」 クスクスとおかしそうに笑う相手を見て、浩美は自分の神経が沸騰するのを感じた。 「ふざけてる場合かよっ!」 「ふざけてなんかないよ。浩美こそ落ち着きなよ。ちょっとおかしいよ。何でそんなにピリピリしてるのさ?」 からかうような物言いに浩美は、さらに声を荒げた。 「こんな時に、落ち着いてられっかよ!」 彼の拳が車のボンネットを、勢いよく叩いた。痛みに皮膚が悲鳴を上げる。だが彼は、そのまま車に身を任せると深く頭を垂れた。そして絶え絶えに呟く。 「俺は怖いんだ。お前がもし春さんだとしたらと思うと……怖くて堪らない。あの日の前日、俺は春さんに酷いことをした……それがあの人を追いつめて、村から出て行かざるをえない状況を作り出してしまったんじゃないか? だからこそ春さんは、こうしてまた俺の前に現れた。あの時の姿のままで、俺を糾弾するために……そう思うと俺は、気が変になりそうなんだよっ……」 沈鬱な浩美の悲鳴が、空地にこだました。その余韻が残る中、直樹は彼に向かって、一歩一歩近づいて行く。 「ねぇ、浩美」 その声に相手はピクリと反応したが、顔は伏せたままだった。直樹はそんな彼に向かって、言葉を紡ぎ続ける。何の感情も見せない声で。 「俺は知ってるよ。浩美は、兄貴のこと……抱いたんだよね?」 瞬間、浩美はハッと視線を上げた。すると、目の前にはゆるやかな笑みを湛えた直樹が立っていた。 いや違う。浩美は大きく目を見開いた。 これは直樹じゃない。直樹はこんな顔しない。 ――じゃぁこれは……一体……?
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