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【ミステリーBL】4話(2)【1分あらすじ動画あり】
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↓現在、以下の2つのお話が連載中です。↓
週末に動画のビュー数を見て、
増加数の多い方の作品をメインに更新したいと思いますmm
◆『不惑の森』(本作品:ミステリーBL)
https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU
◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)
https://youtube.com/shorts/GBWun-Q9xOs
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ゆっくりと目を開ける。
夢と現実とを区別するのに、大分時間がかかった。嫌な汗をかいていることに気付き、空気を入れ換えるために窓を開けに行く。
窓から見える空はまだ真昼の青さを留め、夕暮れの気配は遠くの彼方でわだかまっているだけだった。
良かった。まだそんなに経っていない。
直樹はホッと息をついた。
あのあと掃除を手伝ってくれた浩美と別れ、疲れた体をソファに横たえた。そしたら、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
(……嫌な夢を見たな)
風に当たりながら、夢の内容を思い出そうとした。だが一向に出てこない。体と頭だけがひどく重く感じた。
直樹は窓から離れ、新鮮な空気を吸いにポーチへと出た。
ギクリ。その時になってようやく気がついた。自分は今、村に来ているのだ。そして、目の前にはあの森がある。
帰り際、浩美はこう言い残した。
『夜は外に出るな、森に呼ばれるぞ』と。
馬鹿馬鹿しい。そう思いながらも、ちらりと前を見る。
早いもので、わずかにピンク色になり始めた空の下、森はその威容をだんだんと濃くしていった。風が吹く度、木々はこそこそと揺れ、葉群の影に陰鬱さが宿る。
森全体は今や黒っぽく、まるで夜が待ち遠しくて唸る黒い獣のようだった。
ぞくりと背中が震える。その場から動くことが出来ない。
――でも俺は、あそこに行きたい。
唐突に思った。
そして気がつくと、直樹の足は吸い寄せられるように森へと向かっていた。我に返った時には遅く、既に自分がどこにいるのかわからないところまで入り込んでしまっていた。
(……まるで夢遊病者のようだな)
そんな、のんきなことを考える。
その時、森の奥から夜の鳥の声がこだました。
緊迫感で体が強張る。自分の心臓の音がやけに耳につく。
どうする?どうしたらいい?
必死で考える。
このままではすぐに夜が来てしまう。そうなったら最後、今日中に森を抜け出すことは不可能だ。ここで夜を過ごさなくてはならない。
帰り際、浩美が言っていたことを思い出した。夜の森には近づくな。
だが、もう近づいてしまったことには変わりない。
直樹はどうする術も見つからなくて、ただその場に立ち尽くした。そうしていると自分の荒い呼吸の合間を縫って、葉の擦れる音が鮮明に聞こえてくる。
森が鳴いている。いや、森が泣いている?
懐かしい声で。
――助けて、ここにきて、迎えにきて。
――俺は今でもここにいるから。
そんな声が聞こえた気がした。途端、今まで張りつめていた何かが一気に爆発した。
「兄貴っ!」
声は森の静けさの中へと吸い込まれた。耳を澄ませる。だが答える者は誰もいない。当たり前だ。それでも、直樹は声を出し続けた。
「兄貴っ! どこにいるんだっ? 出てきてくれっ!」
衝動のままに走り出した。踏みしめた枯葉が切ない悲鳴を上げ、無造作に伸びた枝が頬を傷つける。それでも止めようとは思わなかった。
今まで自分は何度この道をたどったのだろう。夢の中で、記憶の中で。
だが、これは現実なのだ。頬を走る痛みがそれを教えてくれる。
ここは本物の森だ。ずっと恐れ、ずっと焦がれてきたあの森。
兄貴を飲みこんだ――森。
ここであの人は、今でも彷徨っているのだろうか?
堪えきれず叫び出す。
「兄貴っ! どこだよっ! お願いだ、出てきてくれ!」
息をするのが辛く、近くの木に手をつき項垂れた。それでも乞わずにはいられなかった。
「俺も、俺も一緒に行くから……ついていくから、だから――」
――置いていかないで。
縋るように顔を上げる。森の奥で闇が蠢いていた。
その時、目の前の木々の間を白いものがかすめた。
白いシャツ。華奢な背中。
あれは――
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