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【ミステリーBL】4話(3)【1分あらすじ動画あり】
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↓現在、以下の2つのお話が連載中です。↓
週末に動画のビュー数を見て、
増加数の多い方の作品をメインに更新したいと思いますmm
◆『不惑の森』(本作品:ミステリーBL)
https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU
◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)
https://youtube.com/shorts/GBWun-Q9xOs
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「兄貴っ!」
直樹は考える間もなく走り出した。躓きながら白い影を追う。しかし影は敏捷い動きで、さらさらと森の奥へと入っていってしまう。その姿はまるで樹海の闇の中に浮かぶ鬼火か何かのようだ。
直樹は直感した。
これを追えば最後、二度と森から出てこれなくなるだろう。
だが直樹は足を進めた。進めざるをえなかった。なぜなら自分は、最初からそうなることだけを望んでいたのだから。
兄と同じところに行くことだけを。
「春樹っ! 俺も一緒にっ…!」
絞り出すように叫んだ声に、一瞬だけ影が振り向いた。それを見て、直樹は息を飲んだ。
振り返った影の顔は兄にしては幼く、面立ちも違った。
彼は――
「……直、樹?」
子供がぴくりと反応した。まるで警戒している獣のように、さっと木立の奥へと入っていってしまう。
「直樹っ! 直樹!」
動揺に駆られながら、その名を呼んだ。
疑問で頭の中がいっぱいになる。
あの子は一体誰だ?
なぜ、昔の自分と同じ顔をしてた?
パニックが頭を支配する。
やっぱりあの子は、直樹なのか?
でも、それじゃぁ――
自分は一体、誰なんだ?
直樹は立ち止まり、力なく項垂れた。
――やっぱり、俺が……春樹なのか?
その答えが知りたくて、再び子供を追おうとした、その時。
「おいっ!」
「?!」
グンと腕を掴まれて、背中に人の体温を感じた。
顔だけで振り向くと、そこには息を切らした浩美がいた。彼は大きく声を荒げる。
「お前、こんな時間に一体何やってんだよっ! ここがどこだかわかってんのかっ!?」
「浩……ッ」
彼はこれ以上行かせない、と言うように直樹の体に腕を回した。強固な腕に息が詰まる。
「浩、美……どうして、ここへ?」
窺うように見上げると、浩美は怒りを抑えるように眉を顰めながら、足下の下草に転がるものを指さした。
「――毛布。これを渡そうと思って連絡したんだ。春先とはいえ、まだ夜は寒いから。それなのに何度電話をかけても、お前はでないし…杞憂だとは思ったけど、気になって一応コテージに寄ってみたんだ。そしたら、お前が森に入ってゆくのが見えて……お前、ホント何やってんだよっ!」
浩美は相手の肩を掴んで向き合うと、その体を揺さぶった。強くはない、ただ揺らすだけのそれに、直樹は居心地の悪さを感じた。
「浩美……ごめん。だから離し――」
「ごめんじゃないだろうっ! 心配させてんじゃねぇよ」
「……ッ」
浩美の手の力が強くなる。直樹は掴まれた肩の痛みで、小さな声をもらした。
「……っ、ホント、ごめん」
そう呟くと直樹は、力なく地面へとへたり込んだ。浩美の顔を見た瞬間、張り詰めていた何かがぷっつりと切れたのだ。そして、体が小刻みに震えだす。
その様子にさすがの浩美も気づいたのか、「おい、大丈夫か?」と直樹の体を起こそうとする。だが直樹はそれを拒否し、その場から動こうとはしなかった。
「おい直樹? どうし――わっ」
突然手を引っ張られた浩美は、相手の腕が自分の首に絡まるのを感じた。そのまま、体ごと引き寄せられる。
――直樹が自分に抱きついている。
それに気づいた浩美は激しく動揺した。
「な、直樹っ?!」
「浩美……」
慌てて体を剥がそうとする浩美の手を押しのけて直樹は一層強く縋りつくと、くぐもった声で言った。
「浩美――あの人はまだここにいる、この森に。待っているんだ、俺を……だから」
息を飲んで、言葉を紡ぐ。
「俺は絶対、見つけ出してみせる」
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