6人が本棚に入れています
本棚に追加
【ミステリーBL】5話(2)【1分あらすじ動画あり】
○●----------------------------------------------------●○
↓現在、以下の2つのお話が連載中です。↓
週末に動画のビュー数を見て、
増加数の多い方の作品をメインに更新したいと思いますmm
◆『不惑の森』(本作品:ミステリーBL)
https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU
◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)
https://youtube.com/shorts/GBWun-Q9xOs
○●----------------------------------------------------●○
「だからハルが、あんなことになってしまったのは残念だ。君の片割れの兄弟はまだ見つからないんだろう?」
こくりと頷くと、〝神父様〟の目じりに今にも零れ落ちそうな涙が浮かんだ。しかし彼はそれを拭うと、力なく笑ってみせた。
「そうか、でも心配することはない。ハルはきっとどこかで幸せに暮らしているよ。今だから言うけどあの子はこの村を出たがっていた。そうゆう時期だったんだよ。あの年代の若者はみんな、一度はその道を通る。ここはティーンにとって退屈という魔物がはびこる巣窟だからね」
〝神父様〟は二人に向かって軽くウインクをした。このコロコロと変わる子供っぽい表情に、昔と同じ親近感が湧いてくるのを直樹は感じた。
そういえばこの笑顔につられて、自分と春樹はよく〝神父様〟の住まいを訪れていたものだったと唐突に思い出した。
そんな中、〝神父様〟が十年来変わらない口調で、明朗と喋り出した。
「ハルは村を出て行った。そのこと自体はここではおかしいことじゃない。いくら彼が大人びていたとはいえ、やっぱり若者の一人だったんだ。特にあの子は知的好奇心に溢れた繊細な子供だった。だからこそ、ここにはいられなかったんじゃないか? でも君をここに置いていくことが忍びなくて、あんなふうにこっそりと姿を消した。君に会えば決心が鈍ることは目に見えていたからね。それほどまでに君たち二人はいつも一緒、何をするにしても二人一組だった。君がヒロミと遊んでいる時以外はね」
確信的に頷く〝神父様〟を見て、直樹は小さく呟いた。
「そうだと、いいんですけど……」
「そうに決まっているよ。心配しなくていい。きっとハルは待っていればここに帰ってくる。他の若者同様、故郷が恋しくなってね」
〝神父様〟のいたずらっぽい視線がちらりと浩美の方に向けられ、再び直樹に戻った。
「私もね、この年になると随分と故郷のことを懐かしく思ったりする。もちろん日本は大好きだよ。それでもやっぱり生まれ育ったところに未練はある。私の育った村もね、ここみたいな小さな田舎町だった。そしてそこにも大きな森があってね、私はそこによく行ったものだ。そのことを思い出してね、だから故郷の森に似たこの村に住み着くことにしたんだ。私の村はもうなくなってしまっていて、帰ることが叶わないから……」
〝神父様〟は寂しそうに笑うと、直樹と浩美をダイニングに案内しお茶を出してくれた。
そして、彼お得意の薀蓄話が始まる。
「君たちは西洋と東洋の森の違いについて知っているかい? ─あぁ、もちろん気候とか動植物の違いとかいう訳ではなくてね。もっと表象的な、イメージとしての森だ」
〝神父様〟は首を振った二人を見て、楽しそうに説明し出した。
「これは君たちも知っていると思うがね。自然と人間の付き合い方は東洋と西洋ではまるで違う。東洋人は自然と人とを一体のものとして考えているのに対して、西洋人の思想では、自然は人間の下にあるもの─つまり人間が征服し、コントロールするものと考えている。だから西洋の者は、管理されていない手つかずの森には〝魔〟が住んでいると信じているんだ。『赤ずきん』や『ヘンゼルとグレーテル』といったおとぎ話を知っているだろう? あれのように西洋のおとぎ話の中には必ず森が出てきて、そしてその森の中にはいつも魔女や魔物、悪魔や幽霊なんていったものが跋扈している。そう考えるとこの村の森は日本であるにもかかわらず西洋の森、特に私の故国であるドイツの森に似ているような気がするんだ。あの多くのおとぎ話を生んだ国の森にね。だから私はこの村と森を選んだ。もう故郷に帰ることは出来ないから、せめてこうしてこの場所で祖国を懐かしがろうとね。〝ふるさと〟というものはそうゆうものなんだよ。だからハルもそのうち、きっとここを懐かしく思って帰ってくるはずだ。私はそれが楽しみで仕方がない。あの綺麗な魂を持った若者がどんなふうに成長し、どんなふうに生きているのか、見てみたい……ん? あぁっ!」
突然、〝神父様〟は大げさなほど狼狽えると、急いでキッチンから何かを持ってきた。それは焦げて表面がちょっと固くなったパンケーキだった。
「どうやら焼きすぎてしまったようだ。でも良かったら食べておくれ。ナオは昔これが好きだっただろう? 市販の粉じゃないヨーグルトとサワークリームを使った手作りのパンケーキだ」
○●----------------------------------------------------●○
9/30(Mon)
閲覧いただき、ありがとうございます。
『不惑の森』の動画ビュー増加数の方が2ビュー多かったので、
今週はこちらを更新させていただきます。
動画を見てくださった方、ありがとうございます!
また、「郁嵐(いくらん)」名義で
ブロマンス風のゆるい歴史ファンタジー小説も書いています。
新連載を始めましたので、気軽におこしくださいませ~
◆あらすじ動画
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
※本編情報は概要欄にございます。
良い週をお過ごしください!
○●----------------------------------------------------●○
最初のコメントを投稿しよう!