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駐車場につくとチッチはちゃっかり助手席に腰掛けていた。 既にシートベルトも着用し、姿勢正しく前を見つめている。何かしらの考えに夢中のような表情だった。 泡沢が運転席に座りエンジンをかけるまでチッチはそんな状態だった。 「あ、先輩、遅かったですね」 「充分早いと思うけどな」 泡沢が返すとチッチは人差しを立てた。カウントを取っているかのように、人差しを倒しては戻し戻しては倒すをしばらく繰り返した。 「うん。確かにそうかも知れませんね。すいませ ん。私の感覚が少しばかりズレていました。先輩が、お、そ、い、は、ず、がありませんからね」 「当然だ」 チッチはさっきの続きで、からかうつもりなのだろうが、その手に乗るつもりはなかった。 既にシコったし、溜まっていたものも出し切った感があった。下半身だけはスッキリしていた。 この調子なら、現場につけば怖いものはない。 第一容疑者は息子の善久だが、それを確実なものか判断する為に、自分が現場へ向かわされるのだ。 「行くぞ」 泡沢がエンジンをかけた。左右を確認しゆっくりと車を前へと出した。 「はい。お願いします」 チッチはいい、泡沢の方へ顔を向けた。 口を開き舌を出していた。その舌と歯並びの良い少し大きめな前歯に細い唾液の系が繋がっていた。 それだけでエロかった。 すかさず頭の中に良からぬ妄想が駆け巡る。駄目だ。 現場につけば、チッチがこのようにふざける事がないのはパートナーである泡沢は充分、わかっていた。 現場につけば、嫌でも真剣に取り組む事になる。 もし、勃起しなかったら?という考えは否が応でも現場に着くまでに何度か頭に過ぎるものだ。 そんな些細な不安が、結果的に間違いを引き起こす原因となりかねない。 本来勃つべき所で勃たず、勃たなくて良い所で勃つ事だってあり得るのだ。この勃起を1番信用していないのは泡沢自身だった。 それを知ってか知らずかわからないが、チッチは常日頃から泡沢をリラックスさせる為に気を使ってくれている。 感謝しかないが、だが、チッチはまだ俺の事を半分も理解出来ていないと思っていた。 事件解決に向かうその足の途中でさえ、そんな風なリアクションをされてしまったら、泡沢自身が動揺し、鼓動が高鳴りメラメラと湧き上がる欲望に打ち負かされそうになるのだ。 どんな状況であろうと泡沢自身が自分を律する事さえ出来るのなら、吉祥寺で初めて桜井真緒子と遭遇した時に、取り逃す筈がない。 情け無いが女性に詰め寄られチンポを触られた途端にやるべき事が、頭の中からすっぽりと抜け落ち、放棄してしまう。 恋愛経験の少なさのせいなのか、それともSEX依存症に近い何かしらの病気を、泡沢自身疑った事もあった。 だがそう診断される事に恐れをなして、泡沢は診察を受ける事はしなかった。 まだまだ若いし、オスとしてやりたい年頃だというのは自覚している。 自分はまるで童貞を失った時から、何一つ成長していないなと思った。 あの時は24時間、SEXの事ばかり考えていた。数えきれない程、夢精もしたし、その余韻を味わいたいが為に続けざまシコったりもした。 そんな男がそのまま大人になり今では刑事をやっている。 勃起刑事などと、名誉か不名誉かわからないようなあだ名まで貰った。だがその一種、独特な能力のお陰で今の自分があるのは間違いなかった。 そんな自分を卑下するつもりもないし、否定もしない。けれど、頭の中で切り替えが出来ないのは頂けなかった。 こんな状況はチッチが刑事課に配属されるまでは無かった。 やはり、刑事としての自分の役割を完璧に果たす為には、一旦チッチとのコンビは解消するべきなのかも知れない。 そのように考えるのは自分のエゴだとはわかっていた。けど当然ながら、反対の考えも強くあった。 目まぐるしく回る思考の渦に巻き込まれながら、泡沢は右に左にとハンドルを切り続けた。 そんな泡沢をチッチは黙って見ていた。いやその姿から泡沢を観察している風な印象を受けた。 珍しく黙って前だけ見ているチッチに、泡沢はなんだか落ち着かなくなった。 そう仕向けたのは自分だが、これほど喋らないとは思わなかった。こんなチッチは初めてだった。余計に取り乱しそうになる。 「さっきは悪かった」 「何の事ですか?」 こちらを見もせずチッチが言った。 「駐車場での事だよ」 「はて?」 まだこちらを向かなかった。 「エンジンをかけ俺が行くぞ、と言った時、チッチは口を開き舌を出しただろ?イクと行くをかけて口に出していいよ?っていう下ネタをスルーした事だ」 「私が?先輩何言ってるんですか?変な妄想し過ぎです。まだヌキ足りないのですか?それに私、幾ら何でもそんな事恥ずかしすぎて出来ません!」 「どの口が言うんだよ!」 「この口ですよ」 チッチはいいようやく泡沢の方を向いた。 唇を半開きにし、ねっとりと濡れた舌を出していた。 「とんでもない確信犯だな」 泡沢が、いうとチッチは笑い出した。 「あー楽しかった。先輩に放置プレイを試してみたくて、やってみましたが、先輩って周りの空気に過剰なまでに気にしすぎです。敏感過ぎるのはチンポだけにして下さい」 助手席には普段のチッチがいた。 自然と泡沢の顔に笑顔が浮かんだ。 「さっきまでの先輩が何を考えていたかはわからないですけど、私が1番大事にしている事は、リラックスする事です。物事に直面する前からあれこれ考えたって仕方ないじゃないですか。どうせ直面しなきゃいけないんですからね。話が横道にそれますが、私の座右の銘は「行き当たりばったり」です。その時々で真剣に取り組めばいい。だからそれまではエッチな事考えてたり、映画観たいとか、何でも良いですけど、自分が楽しいと思える事を考えたり、触れていれば良いんですよ。 だから私は先輩のチンポに触れるし、触れたいんです。まぁ正直。触れられるだけじゃ満足出来ない事も多々ありますが、それでも私達は刑事ですから、仕事はしっかりやらなければなりませんので、先輩を無茶苦茶にしたいという私の欲望を果たすのはまだまだ先になりそうなのは、残念ですけどね」 「そ、そうなのか?」 「何、期待しちゃってんですか?甘い蜜はそう簡単に手に入るものではありませんよ」 チッチはいい、自分の人差しを口の中に入れた。舐め回すと取り出した指を泡沢へ近づける。 信号が黄色から赤に変わった。泡沢はゆっくりとブレーキを踏んだ。 同時にチッチのもう片方の手が股間に置かれた。 「先輩って妄想癖が最強で最凶過ぎます。指を舐めただけで勃起するんですからね。けど、もうすぐ現場に着くので、その勃起は出来るだけ早く萎びれさせて下さい」 チッチはティッシュを抜き取り舐めた自分の指を拭いた。それをゴミ箱に捨てると 「あっ!」 とチッチが叫んだ。 「どうした!」 「先輩これ」 チッチはスーツのポケットから丸められたトイレットペーパーを取り出し、顔を近づけ臭いを嗅いだ。 「これが、泡沢三四郎という男の臭いです」 チッチが丸めたトイレットペーパーを泡沢の鼻へ押し付けた。 「や、やめ、く、臭いわっ!」 助手席で笑い転げるチッチを他所に泡沢は再び、車を走らせ始めた。 鼻頭についた精液の臭いが取れず、何度もティッシュで鼻を拭いた。 が、結局、現場に着くまでその臭いが取れる事はなかった。
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